書きたかったから、書いた。(名古屋グランパスの過去と現在と未来)

名古屋グランパスの新しい最初の船出も、もう折り返しを迎えようとしている。

現時点での状況を皆様はどう捉えていらっしゃるだろうか。

今回のブログでは、名古屋グランパスが掲げるコンセプトと、それに対する期待と懸念、今後起こりうる状況についてを、できる限り客観性を以って整理したい。ここから先は、私自身の頭の中の整理のために書きたいと思っている。

なお、風間監督を中心とした今年の首脳陣が、具体的にどのようなアプローチをして、チームビルディングを図っているのかはここではあえて詳しく記述しない。

 

 

 

今シーズンの名古屋グランパスは、数的優位で立ち向かう相手に対して、最小人員で打開することを目指したチーム作りをしてきたと言える。例えて言えば「4人で守る相手に対して、1人ないしは2人(最小人数)の相互の技術を高めることで剥がしていく」ことをコンセプトにしているように見えた。

これに関しては、ある一定のレベルのチーム相手には通用してきた。それは、個人のボールを扱うテクニックやコンビネーションプレーの他に、高さや速さ、対人の強さも含めてである。

「ボールを適切な場所に止めて、適切なタイミングで、適切な精度を以って繋ぎ、ボールを前進させていく」という明確なコンセプトを基に、時にはフェリペ・ガルシアやシモビッチの運動能力の高さや、杉本竜士のサイドでのスピードを持ったボール運びなど、飛び道具も使いつつ、個人の能力や技術を発揮できる状況において、「質的優位」を以って結果を出してきた。

そのアプローチによって、花を咲かそうとしている金の素材が、杉森考起であり、青木亮太である。

そして、本来持つ対人能力やボールを扱う技術の高さをピッチ上で発揮できつつある田口泰士、和泉竜司、玉田圭司が、まさにピッチ上で躍動している。

 

名古屋のマクロ的なゲームコンセプトは、「ボールを保持=ゲームを支配」という絶対的なプレーモデルを基に成り立っている。ゲームを支配するということは、言い換えれば「ゲームを自分自身で能動的に動かすことができる」ということだ。

相手にボールを持たせることによって、コントロールするチームも世界にはいるが、そこは指揮官のイデオロギー次第である。

ミクロ目線では、局面局面での小さな集合体(ユニット)の精度を極限まで高め、それを結びつけていきながら、結果的に最大公約数を得ようとするものだ。

その視座で考えた時、稀代の革命家がよく口にする「ポジション・フォーメーションなどは存在しない」と言う言葉の意味が見えてくる。ポジションや布陣に囚われず、あくまでもボールエリアで生まれる個々のユニットの精度を上げ、それに連続性を持たせることを信条としている。例として、ここまでの指揮官の起用方法を見ると、FWの選手をWBやSBと思われるポジションに位置させたり、これまでMFをしていた選手が最終ラインでプレーさせたりしている。あくまでも、11人の「ボールプレーヤー」がその場その場でユニットを構築して、相手を翻弄していくことが目的だ。

 

序盤は、ユニットそのものに精度が足りず、各局面で相手を上回ることに手こずっていた節があった。それは当然だ。これまで教えられてきた「サッカーの試合」に対する考え方と180度異なるからである。今までは、「相手がこうしてくるだろうから、お前はここにポジションを取って、ここを狙え。」「守備はここを気をつけろ。」「あいつは足が速いからスペースを与えないようにしろ。」など、相手の特徴を踏まえて、指示を出す指導者がほとんどだった中で、現監督は相手の出方には何も言及しない。あくまでも「自分たちがどうプレーするか」だ。

そのアプローチにいち早く呼応した選手が結果、もしくはピッチ上で存在感を示し始めたのを機に、チームは上で述べた局面での「質的優位」で勝ちを拾い始めるようになった。筆頭格が、永井龍であり、内田健太であり、玉田だ。そして常にチームの潤滑油として機能した和泉や宮原和也が支えた。

 

だがここに来て、ある一定のレベルを超えるチームに対しては、ユニット単位での脅威を発揮できていない。原因は相手側、そして自分たち、それぞれに理由を考えることができる。

<名古屋がプレーモデルを発揮できない相手の特徴>

・ユニットに立ちはだかるための組織力の向上(研究が進んで来ている)

・それを遂行する選手の能力が高い

<名古屋がプレーモデルを発揮できない自分たちの原因>

・相手の組織的な対策を上回るユニット精度を発揮できていない

・組織でのアプローチを実装していない(要は即興性が高く、再現性が低い)

 

その原因をもう少し紐解くと、勝てる相手には、弱みをマスクできる個(ユニット)の強さで押し切れているが、その上を超えてくるチームに対しては、強みを発揮できず、弱みがさらけ出されてしまう。

弱みを補うことよりも、徹底的に強みを作る、あるいは伸ばすことをコンセプトにチーム作りを進めているため、他のチームよりもその点が「脆く」映るのである。

そしてその強みは即興性で生み出されることがほとんどなので、どこかが噛み合わないと、二度と生まれてこない危険性も秘めている。(実際に、ほとんど90分間何もできずに負けた、あるいはなぜか勝てたゲームも少なくない)

 

その色合いが個人的に濃く映ったのが、先日のホーム長崎戦である。

名古屋に対して、個人能力の相対的な低さを組織力で補って来た長崎相手に、ゲームとしては2-0で勝てたが、内容は乏しかった。

通用して来た各局面でのユニットが機能不全に陥り、ボールを効果的に前進させることができなかった。長崎の選手に決め切る能力がもう少しあれば、負けていてもおかしくないゲームだった。

先ほど上で述べたように、長崎以上の個人能力を持つチームであれば、今後もっともっと手こずることが容易に想像できる。

 

指揮官はこの現状に対して、ユニットの精度を極限まで高めることで打破しようとアプローチを強めるだろう。オンオフ問わず、ボール扱いに慣れた選手だけで11人を組む方針は今後も変わらないと思われる。なぜなら、それが我々が我々の運命を託した人間の確固たるイデオロギーだからだ。イデオロギーを放出した瞬間に、人間は人間ではなくなる。

この方針に対して、色々な意見が飛び回っていることは周知の通りだ。守備を固める戦術を落とし込むべきだという声もある。攻撃において、もっとシモビッチの高さを効果的に使ったり、ロングボールを多用するなど、シンプルかつダイナミックな展開も取り入れるべきだ。攻守におけるセットプレーの訓練も深めてほしい。等、皆様が思い浮かべる要求や意見、不満は数多だと想像できる。

 

正しいことなんて、誰にも分からない。その全てが正解であり、誤りになり得る。

そして、1番大切なことは、最終的に何を目指しているのか。時制を持った目的をどこに設定しているのかである。

「1年でのJ1昇格」が絶対的な目標ならば、1点を守り切る対策が必要だ。守備を整備することもそうだし、そういった選手を起用、獲得することも選択肢になり得る。

風間氏的なコンセプトで言えば「ボールを奪われない」保持能力を高めることも対策の一つだ。

これが、J1やアジアで勝てるチーム作り(早急な昇格が優先順位として高くない)の場合は、もしかしたら今のアプローチで良いのかもしれない。ただ、ユニットとユニットを有機的に繋げる方策は必要だと思うが。

ただ、私はこういう考え方もあると思っている。現在のアプローチで相手を凌駕できていない状況で昇格したところで、格上しかいないJ1で通用するわけがない。という意見だ。

要は、J2を複数年かけてコントロールできた個やユニットに、果たして未来はあるのか?という問いである。

J1昇格即結果を残して来た過去のチームはどういうアプローチをしていたのかを振り返り、再帰性を探ることも、重要な活動である。柏レイソルは?ガンバ大阪は?サンフレチェ広島は?

 

そういったことを踏まえた上で、以下、私なりに現実的な改善策を提案してみる。

個人的には、長くJ2に留まることは、チームの成長にとってはプラスになりづらいと考える。経営的な観点は今回は割愛して、純粋にフットボールにのみ焦点を当てている。

プラスになりづらいと考える大きな理由の一つは、相手(リーグ)のレベルだ。

人間はどうしても相手のレベルに慣れてしまい、域値が下がる。いくら自分では意識を高く持って日々を過ごしていようが、J1で数シーズン戦ったり、ACLという過酷な環境でフットボールをすることで得る経験値に勝てる舞台や環境をJ2に求めることは現実的に難しい。ハングリー精神や、フットボールができる喜びを感じることはできても、プレーヤーとしてのピッチ上での質は、高いレベルに身を置く方が高まる。

これは決してJ2や各クラブをバカにしているのでは無いことはご理解いただきたい。あくまでも、J1と相対的に捉えた上での考察だ。

平均寿命の短いプロサッカー生活や、今後の名古屋グランパスの発展を考えても、なるべく早くJ1に昇格するべきだと考えている。いくらチームとして目指していたレベルまで成熟されていなくても。だ。

J1昇格即優勝争いができるクラブになるまで、無理に昇格できなくても良い。じっくりチーム作りをすべきという意見ももちろんある。が、J2に長くいればいるほど、そのようなクラブになれる可能性は減少していくことは想像に容易い。それほどJ1は甘くないし、J2も甘くない。

当たり前だと思われるかもしれないが、J1で勝てるチーム作りをするためには、J1のチームと週1〜2回ゲームをした方が余程実践的かつ効率的で、再現性が高い。追求した結果、また降格してしまったら、それは力不足と認めるしかない。イデオロギーは高いレベルで追い求めてこそ、結果が伴った汎用性の高いフィロソフィーとなる。

具体的に残り半分のシーズンで取り組んでほしいことを列挙する(まだ湘南戦が残っているけど)

・ユニットとユニットを有機的に繋げる(要は再現性を創造する)取り組みに着手し始めてほしい。要は、「チーム戦術」を攻撃において取り入れるということだ。

風間八宏氏と出会って、劇的に変わることができた部分、伸びた部分を結果としてピッチ上で示すことができて初めてプロであり、プロとしての成長だと言えよう。個として、ユニットととして高めた精度を、相対的なボールゲームの中でどう発揮して、結果にコミットしていくか、その道筋(戦術)は、少しくらいは示しても良いのではないかと思っている。

具体的には、ボールの前進の仕方(ビルドアップ)において、質的優位だけでなく、位置的優位や数的優位を能動的に生み出す試みだ。優位性を創るためには、相対性が必要だ。その観点は、サッカー選手は絶対に失ってはいけないと思う。即興性だけではJ1では勝てない。また、代表選手になった際に、ワールドカップでは勝てない。その意識を踏まえた試みを、今のうちからしていくべきだ。

なぜ質の高いボール前進が必要なのか?それは、個の良さをなるべく良い環境で発揮させるために他ならない。選択肢を多く持てる状態で、前線の選手にボールを前向きに渡すことが、ビルドアップの最大の目的だ。保持することが目的ではない。そこを取り違えないアプローチをしてほしい。

 

トランジション(とりわけ守備に回った際の)の強度と、組織(構造)としての連動性を高めるトレーニングを進めてほしい。個人的に、ボールを握りたいチームがトランジションで遅れをとることについては、大きな大きな矛盾を感じざるを得ない。ボールを保持したいのであれば、相手に奪われたボールを、なるべく早く奪い返す試みは論理的だからだ。

同じようなプレーモデルを志向するグアルディオラ監督のチーム作りの基礎は、守備、とりわけネガティブトランジションの組織的な整備であることは有名な話である。

 

以上、長くなってしまったが、前半戦の総括と、後半戦への期待を述べてみた。

私は風間八宏氏のことを本当に尊敬している。自分が小さい頃に出会っていたら、、、と感じることすらある。

彼は言語化に長けた指導者だ。だからこそ指示が具体的にイメージできる。

これまで個人のテクニックや認知判断動作は、感覚ベースで行われることが多かった。それを言語化して、噛み砕いた形で選手にイメージさせることが抜群にうまい。

だから、彼に教わった選手は皆、選手としての幅を広げたり、芸を深めたり、結果的に選手寿命すなわち選手としての価値を高められている。

そのそれぞれの個やユニットが、相対的なボールゲームの中で、もっと有機的に論理的にかみ合うことができたら、確かに夢のようなチームが出来上がるかもしれない。

名古屋には川崎フロンターレのような魅力的で素晴らしいチームになってほしいし、そして、彼らが掴むことができなかったものを掴んでほしい。

 

私がこんなところで何を書こうが、きっと現実は変わらない。いや、絶対変わらない。

そんなことはわかっている。でも、書きたかったから書いた。