名古屋グランパスの攻撃を「ポジショニング」という観点から切り取る
【前置き】
今シーズンからJ1の舞台に復帰する名古屋グランパス。
昨シーズンから積み上げてきたものに、何をプラスアルファしていくべきか、個人的に色々考えていました。
おぼろげながら、自分の中で仮説みたいなものはあったのですが、なんとなくそれが確信に変わったのが、先日「Foot!」というサッカー番組の中で、私が尊敬する戸田和幸氏が行ったデブライネ特集を見てでした。
あ、こういうことかと。
ということで、今回は昨年末のJ1昇格プレーオフを題材に、対戦相手であったアビスパ福岡の守備戦略を踏まえて、名古屋グランパスの攻撃を「ポジショニング」という観点から切り取っていきたいと思います。
【ポジショナルプレーについて】
この話題になると、皆さん想起される言葉が「ポジショナルプレー」だと思います。
このブログでは定義みたいなものや、原則に対する解釈などについては取り上げません。
こちらの記事が比較的よくまとまっていると思いますので、改めて再確認ください。
ポジショナルプレーという原則の中から、今回はポジショニングということで、「位置的優位性」を主なテーマに見てみました。
一つだけ「ポジショナルプレー」について付け加えさせてもらいます。
「ポジショナルプレー」自体は原則・概念であり、それを具体的な人間とボールの動かし方に落とし込んだものが広義の「戦術」だと理解しています。
そこに落とし込む上で必要な作業として、一見抽象的な概念(現象)を言語化していく必要があります。
例えばポジショニングという切り口で言えば、「中間ポジション」「ライン間」「ハーフスペース」などがそれにあたるでしょう。
そして最も大切なのは、それらの戦術は、相手の構造的特徴を踏まえて差配されているべきだということです。
一つのボールを22人で奪い合い、繋ぎ合い、ゴールを目指すボールゲームであるというこの競技の特性上、相手の構造を無視してポジショナルプレーを落とし込むことはナンセンスである(というか不可能)というのが私の中で前提としてあります。
ということで、まずは福岡の守備戦略を踏まえ、それに対する名古屋の改善点や良かった点について、いくつかのシーンをピックアップし、最後に考察をして終わります。
【アビスパ福岡の守備戦略】
まずは福岡の守備におけるゲームプランについて簡単に振り返ります。基本布陣は3-4-2-1。名古屋とマッチアップさせてきました。
その意図も含め、私が感じ取った、この試合のアビスパの守備戦略を以下に箇条書きで示します。
・名古屋陣内では、名古屋のGK以外のフィールドプレーヤーに対してマンツーマン気味にプレッシャーをかけ、ボールをWBもしくは落ちてきたシャドーのところで後ろ向きに持たせ、それを前向きに奪ってショートカウンター。
・自陣では、5-4-1のブロックをコンパクトに形成するが、スペースなのか人なのかの管理がたまにあやふやになり、統率が取れなくなる場面がある。
・自分の背後に斜めに侵入される動きに弱いが、そこは3バックシステムを活かして、隣の選手が最終的にはカバーリングする
・自分のマーカーへの意識が強いため、ポジションを変えらえると戸惑う。
例えば敵陣での数的同数でのプレッシャーのかけ方はこんな感じです
福岡の敵陣での数的同数プレスその1 pic.twitter.com/C7ANNE2X60
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
福岡の敵陣での数的同数プレスその2 pic.twitter.com/ukBH66kDmD
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
ボールサイドとは逆にいるCB(上の動画だと、その1が櫛引、その2が宮原)は捨てて、ほぼマンツーマン気味にアプローチしているのがわかると思います。
その1の動画では、最終ラインの選手も、名古屋の3トップと2ワイドに5人ついて行っているのがわかるかと思います。
名古屋はこのシーズン、数的同数プレスに苦労するゲームが多かったです。そこには様々な理由がありますが、1つは、最終ラインの選手のビルドアップセンスがやや低いということと、プレッシャーを回避する構造的な術を持ち合わせてなかったということが挙げられると考えています。
福岡の個々の選手の対人の強さ、自分たちの長所と相手の短所を踏まえて、布陣をあえて名古屋と同じ形にして、対人ゲームに持ち込もうとしたわけです。
名古屋も名古屋で、細かく繋ぐと言うよりは、前線のシモビッチをターゲットにロンブボールでプレッシャーを回避して陣地を回復したり、裏に選手を走りこませてそこにフィードを合わせたりなど、スタイルを度外視した対策は試みますが、それも織り込み済みであった福岡優勢にゲームは90分進んで行ったという展開でしたね。
【自陣での被プレスに対する方策】
そんな中で、名古屋がそのプレスをうまく回避しかけたシーンが2つあったのでご紹介します。
小林のポジジョニングで田口へのパスコースを作り、プレスを回避しかけるシーン pic.twitter.com/hCThUIkhUe
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
これ、結果的にファールを受けてボールを敵陣には運べず、一見なんともないプレーに見えるんですけどね。個人的には最高だなーと思ったシーンです。
上で書いたように、福岡の敵陣での守備意識は人(自分のマーカー)です。なので自分のポジションのエリアを守るというよりは、自分の担当選手を自由にさせないことを優先しています。
なので、人についていく傾向があります。
小林はそれを逆手にとって、あえて自分のマーカー(この場面でいうと山瀬)を引き連れることで、和泉→田口のパスコースを作ります。それをおそらく小林は意図的にやってます。
動画の、前半7分12秒のシーンをよく見てください。田口と和泉の位置を首振って前もって確認してますよね。
このシーンは、和泉も田口の位置を確認してますし、田口もあえてボールサイドには近寄らず、あの位置にとどまることでパスコースを作りました。
また、福岡の守備がボールサイドに密集することもわかっているので、田口はこの位置で自分がボールを受けたら、背後の逆サイドはスペースがあることも理解しているので、あのようなターンの動きから逆サイドに速やかに展開しようとするのです。
(ワシントンがもう少し感じて、ポジションを前目にとっておけばもっとスムーズなビルドアップになったかもしれません)
もう一つ小林です。次はポジショナルプレーの原則の一つ「数的優位性」を意図的に作ることで、数的同数プレスを剥がそうとするプレーです。
小林の動きで415に可変し、フリーの選手(宮原)を作る pic.twitter.com/7yBkYlJjSZ
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
福岡の守備がマーカーを意識したものだということを踏まえた小林は、最終ラインにポジションを下げて、4バックでのビルドアップを試みます。
ここで、冒頭の動画を見直してみてください。
例えばボールが名古屋の中央から右サイド寄りでビルドアップを始める場合、マッチアップの形はこうなります。
ワシントンーウェリントン(シャレみたいになりましたね笑)
宮原ー松田
青木ー亀川
小林ー三門
田口ー山瀬
三門と山瀬はある程度バランスも意識していますが、基本はこんな感じですよね。
それが、小林が最終ラインに落ちた結果、守備の約束事が破綻しかけてしまいます。まず写真1
写真1
ワシントンだけでなく、松田も小林よりにポジションを取ってしまいます。ただ、この寄せが少し遅いため、小林にとってはプレッシャーにはなりません。
そして一番大事なことは、それによって、さっきまではプレスの標的になっていた宮原がフリーになれていることです。
続いて写真2
写真2
青木が大外から、ハーフスペースに斜め侵入(これをoutside-inの動きと呼んでます)し、マーカーの亀川を引き付ける。
この動きによって、より宮原がフリーになります。
そして写真3
写真3
結局小林は中央の田口へのパスを選択。その後田口は一度ワシントンにボールを下げて、素早く左サイドの櫛引に展開します。
結果はこうでしたが、でも考えてみてください。写真3を見ていただければわかるかと思いますが、シャビエルが大外レーンに張ってますよね。
青木のoutside-inの動きが、宮原→シャビエルへの縦パスコースの確保のためだと仮定したら、例えば小林がボールを持った時、シンプルに宮原に預けていれば、きっと宮原はすぐにシャビエルにボールをつけ、敵陣サイドでシャビエル起点という名古屋にとっては最も得点の匂いのする局面になったと思いませんか?
おそらく青木はハーフスペースをバスケのトレーラーレーンのごとく疾走し、相手の堤と冨安間を裏抜けするはずです。そうするとフォローに走るであろう宮原を含めた3on3もしくは3on2が作れた可能性があります。
小林の選択がより難しいものになってしまったものの、こういう形で、相手の守備戦術を受けてカオスを起こし、誰かをフリーにする。
この小林の、ボールを持たずともパスコースを作り、味方をフリーにするプレーは見事です。
この2シーンで見られたエッセンスを、小林の個人戦術だけに留めず、チームとして「ポジショニング」という概念を踏まえて構築していくことは、今シーズンも受けるであろう自陣からのハイプレッシャーに対する極めて有効な戦術になりうると考えます。
【相手陣内における方策】
第一部は小林裕紀を取り上げました。
第二部は玉田圭司です。
あえてスローにしました。まずこのシーンを「ポジショニング」という観点でご覧ください。
玉田の動きとポジジョニングによって、相手と味方とボールを全て動かす pic.twitter.com/N4BXKRRJdd
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
1.まずハーフスペースに落ちてボールを受け、ディフェンダーを引きつけて外の和泉をフリーにする
2.8:49 外で受け直した玉田は、縦にいる和泉に預けて、ハーフスペースへ侵入
3.2の動きによってディフェンダーを引きつけ、和泉がカットインするスペースを作る
4.再度ハーフスペースにポジションを取ることで、ディフェンスに対応を悩ませ、フォローで出てきた小林からのパスコースを確保し、リターン。玉田のポジショニングによってディフェンダーは対応が中途半端になり、結果サイドをえぐられかける
もう一つあります。
玉田の動きとポジジョニングによって、相手と味方とボールを全て動かすその2 pic.twitter.com/S8rlrjmPZ2
— 素材 (@blog_hardworker) 2018年2月3日
1.シモビッチへのフィードのこぼれ球を玉田が拾い、左サイドの和泉にパス
2.その後すぐにハーフスペースをインナーラップすることで、相手を引きつけ、和泉のカットインスペースと、シャビエルへのパスコースを確保
3.14:26玉田がシャビエルと相手のポジションを確認。その瞬間に、和泉→シャビエル→自分という絵を描き、その通りの展開になる。
漫画『ファンタジスタ』でたまにあるシーンですが、和泉のパスもシャビエルのパスも全て玉田のポジショニングとフリーランによって「出されたもの」だということに衝撃を受けます。。
つまり、玉田のポジショニングと動きによってその後のプレーが全て規定されています。ボールを持っても一流ですが、持っていない時も一流です。
ポイントは、ただ闇雲に走ったり、位置しているのではきっとないという点にあります。相手のディフェンスが人への意識が強く、背後のケア(とりわけ斜めに入ってくる人やボールへの対処)に難があることを察知していたはずです。
【独り言】
今日取り上げたのはほんの一部のシーンに過ぎません。そして全てのシーンがいいフィニッシュであったり、形、結果には繋がってはいません。こうしたオフザボールの考え方を取り入れながら個々のプレー精度を上げていくことが重要なのではないでしょうか。
ただ、相手の構造、特徴に沿った、ポジショニングや数的優位を意識した動きを意識するだけで、局面を打開するきっかけを意外と簡単に作ることができるんじゃないか?という提案です。
昨年1年間で築いてきた個人戦術とその融合は、確かな財産として今シーズンも大切にしていくべきだと思います。
その個人戦術を、相手の構造的特徴や欠陥を踏まえた上で、チームとして適材適所で展開すれば、もっとゲームを支配することができるんじゃないかと思います。
それらをもっと効果的なものにするためにも、今回はボールを触っていない選手の「ポジショニング」という観点から検証、提案させてもらいました。