名古屋グランパスの、相手を「外す」技術を切り取る

【前置き】

昨日は、名古屋グランパスの攻撃について、「ポジショニング」という観点から切り取ってみました。

 

hardworkers2011.hatenablog.com

 

「自分がここに位置する」あるいは「自分がここに動くこと」によって、ボールを持たなくても、味方に使って欲しいスペースを作ったり、パスコースを作ることができる。

それを相手の守備戦術や構造的欠陥を踏まえた上で実装していくとより良いのではないかという趣旨のことを書きました。

本日は、昨日同様2017年のJ1昇格プレーオフ決勝から、風間八宏監督の指導の効果が明らかに出ているであろうシーンを2つ取り上げました。

どちらも決定的な形を作った(作りかけた)ものの、結果には結びついてはいませんが、個人的に印象的だと思ったので取り上げます。

1つ目は単純に1人と1人計2人間でのやり取りです。

2つ目はそのシーンに至る流れと、福岡のダブルボランチ、そして最終ラインの選手の頭の中を覗きつつ検証していきたいと思います。

 

 

 

【シーン①:田口泰士と青木亮太の「バックドア」】

相手の最終ラインの背後を取るための、比較的ベーシックな戦術として提唱されています。

この戦術に関してよくまとめられているブログを下記に貼っておきます。(便利な時代ですね)

footballhack.jp

上記ブログ内を引用させてもらうと、バックドアとは以下のような戦術になります。

 

2人の関係でシンプルに崩すプレーです。

※バ!: ”va”で スペイン語で「行く」の三人称単数形。”彼は裏に行く”という意味。フットサル用語。

バックドア: バックドアカット。バスケットボール用語でゴール下へ抜ける動き。

動画では紹介していない大事なポイントをあげます。

1. パスの出し手がボールをトラップして蹴れる体勢になった瞬間

2. 受け手は軽くジャンプして着地し地面を踏み込んで裏に加速

この1と2のタイミングを合わせるプレーをバックドアと言います。このタイミングをバ!と呼ぶことにすると、イメージしやすいかもしれません。なぜこうするかというと、DFはボールホルダーがトラップした瞬間、必ずボールウォッチャーになるからです。

DFは常にOFが次にどんなプレーをするか予測します。ボールホルダーのファーストタッチのときは、ワンタッチでパスするかもしれないしトラップするかもしれません。トラップもどの方向にするかでDFの対応は変わります。ですから、トラップの瞬間にDFはボールホルダーから目が離せません。この時DFの視線を盗むようにして裏に抜けると上手くいきます。

受け手はバ!のタイミングで軽くジャンプします。理由は出し手にサインを送ることと、着地時に地面を強く踏んで急加速することと、ニュートラル姿勢を作りDFに予測をさせないことがあります。スイッチみたいなものです。

以下のyoutubeは、バックドアを動画で説明しているものです。ご参考まで。

 


サッカー裏を取る動き backdoor cut in football

 

このバックドアに似た動き、実は結構今シーズン名古屋の選手は最終ラインとの駆け引き時にやっています。

印象的なシーンを今日は1つ取り上げます。

 

<ポイント>

1.青木は田口がトラップをして蹴られる状態になった瞬間(いわゆるバ!のタイミング)に、左足を軸に地面を強く踏み込み、急加速を始める

2.青木をマークしていた亀川も、青木の踏み込みについていくことで、体重が前のめりになり、その後の青木の急加速に完全に置いていかれる(このシーンの場合、むしろ見失ってしまっていると言った方が近いかも)

3.田口は「バ!」のタイミングで裏に出すのが理想的だったが、コースが無いと判断し、1テンポ長くボールを持ってからスルーパスをしたため、青木とは合わず、加えて時間がかかったことで堤のカバーリングが間に合った

 

このような駆け引きが個人戦術として実装されたことも、今シーズンの青木のブレイクに繋がっているかもしれません。

マチュア時代から、「ボールを持てば天才(宇宙人)」と評され続けてきましたが、風間監督の指導によって、いかにいい状態でボールを持つか、そのためにどういう動きをすべきかをしっかり学んでこれているように思います。

 

【シーン②:和泉の、相手をコーン化させるパス技術と、シャビエルの外し方】

このシーンで観ていただきたいのは、和泉の小林へのパスと、シャビエルのパスの受け方です。

ただ、この2つのプレーを伝えるためには、プレーの流れと、福岡の選手(特にダブルボランチと最終ライン)の頭の中も踏まえないと不十分だと思ったので、長めに動画を撮りました。

下記の流れに沿って、動画を観てみてください。

 

 

<流れとプレー解説>

1.福岡のGK杉山が、敵陣に位置するウェリントンをめがけてキック。

2.そのボールを結局田口が回収し、シモビッチを経由して左サイドの和泉に時間をかけずに展開。

(ポイント:両サイドのシャドーポジションにいる仲川と松田は、ウェリントンに当てたこぼれ球を拾うために前線に残っているため、本来マークすべき和泉を仲川がマークしきれていない。)

3.(33:53)遅れる仲川に代わって、ボランチの三門が駒野とダブルチームを組んで和泉をチェック。本来であれば、もう少し中央にポジションを取ってゾーンを埋めるのが仕事だが、この試合和泉がキレにキレており、一人で局面を打開するシーンが多かったため、気持ちが和泉のケアに引っ張られたのではないかと想像する

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4.(33:54)カバーに追いついたもう一人のボランチ山瀬は、小林の位置を確認し、和泉→小林のパスコースを消す。本来田口には三門がついておくべきだが、上記のように仲川のサポートで和泉のケアをしているため、田口が後方でフリーに。田口に対しては、前線の誰かにマークの受け渡しの指示をしているが、多分通っていない。

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5.三門と山瀬のプレーによって、和泉はプレーを遅らせられ、一度中に切り返して身体の角度を作る。(この角度の作り方が和泉は本当に上手なんです)

その過程の中で、和泉が田口の位置を確認したことを受けて、山瀬は小林へのパスコースを切った上で、後ろ(田口)に出させ、そこを前向きにインターセプトすればカウンターのカウンターを繰り出すことができると判断し、あえて和泉→田口のパスコースは開けて狙った

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(山瀬の身体の向きに注目。明らかに前のめりで田口へのパスを読んでいる)

 

6.和泉は山瀬のプレー意図を逆手に取り、身体の正面を田口の方向に向けたまま、軸足を保って腰の回転によって小林にパスを通す。(ここが肝となるプレーです!!このパスが説明したくて、前置きの説明が長くなりました)

最終ラインは3トップにそれぞれ張り付いているため、もちろん小林のマーカーはいない。

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7.最後はシャビエルのマーカーを外す動きに注目。(33:58)サイドステップを後方に踏む事で、マーカーの堤を引きつけ、かつ小林から自分へのパスコースを作る。

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8.小林が前に長めのトラップをした次のタッチに合わせて、右足を軸にストップ&ゴー。(この時の左足のさばきの速さがたまりません)一気に自分が空けたインサイドのスペースに斜め侵入。堤はシャビエルに引っ張られており、対応が完全に後手に。

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9. 3バック中央の冨安がシモビッチのマークを捨てて、堤のフォローのためシャビエルに寄る。それによってシモビッチがフリーとなる。あとはシャビエルのファンタジーパスでラインブレイク成功

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すみません、長くなりました(笑)。ただこの和泉とシャビエルの相手の外すプレーっていうのは、そのプレーだけ切り取ってもすごさが伝わらないと思い、福岡の守備がどういう形で、何を狙っていて、それをどう利用して局面を打開したかを伝えたら、より分かってもらえると思って、周辺情報も併せて解説しました。ポイントは以下の4点です。

・和泉の、山瀬の狙いを逆手に取った身体の作り方とパス技術

・小林のピッチと、堤の対人意識を完全に頭に入れた上でのシャビエルのタイミング取りとスペース作りのためのサイドステップ

・シャビエルのstop and goのキレ(特に右足で踏ん張ってからの左足のさばき方)

・そして何より、これによって冨安が自分に対峙することでシモビッチがフリーになると予測できるアイディアとインテリジェンス、更に実際にその状況を創り出す圧倒的な技術

 

【まとめ】

今回は、青木、和泉、シャビエルの、相手を外す(読みの上をいく)個人戦術にスポットを当てました。

一人一人が相手の意図や狙い、癖や弱点を考えて頭に入れた上で行ったという点に価値があると思っています。

チームとして、技術も頭もより成熟させていかないとJ1では結果をなかなか出せないと予想してます。

昨日の前編と本日の後編を通じて、今シーズン、名古屋グランパスが更なる前進を遂げることを祈っています。