名古屋グランパス スカウティングシリーズ第一弾「ビルドアップ」編

【前置き】

まさかの21年ぶりのリーグ6連敗に苦しむ名古屋グランパス

予想していた方も、そうでない方もいらっしゃるでしょう。

ここ数試合観ていて、確かに何もかもがうまくいってない感じはある。

でも、具体的に何が悪くて、どう修正すればいいのか?

そんな知的好奇心が自分の中でふつふつと湧き上がってきたので、検証してみました。

 

スカウティングシリーズと題して、先月号のフットボリスタの記事を参考に、名古屋グランパスの過去数試合を、

・ビルドアップ

・ポジショナルな攻撃

・ポジティブトランジション

・ネガティブトランジション

・プレッシング

・組織的守備

上記6項目について、得失点シーンを中心に検証してみたいと思います。

今回は第一弾ということで、ビルドアップから。

(ただ、このシリーズは自分の好奇心が弱まった瞬間に終わりますので、あしからず)

 

【ビルドアップをどう切り取るか】

ここでの「ビルドアップ」は、以下のように定義します。

「自陣低いところから攻撃を組み立てるアクション」

また、ビルドアップにも2種類あり、それぞれ意味合いが異なるので、そこも整理しておきます。

ダイレクトなビルドアップ:縦への展開を急ぐ

ポゼッションによるビルドアップ:後方からパスを繋いで攻撃を組み立てる

名古屋グランパスは私の見立てだと、1:9で後者に偏ってます。

 

それでは、定義を再確認したところで、ここからの具体的な内容は私の個人的メモだと思って読んでいって頂ければと思います。

 

【ダイレクトなビルドアップ:分析】

・主にロングパスを蹴るのはGKランゲラック。次いで小林裕紀。宮原、ホーシャもパターンとしては持っている

・本ビルドアップのスイッチになる状況は、相手の強いプレッシャーに対する回避、もしくはGKへのバックパス時

・ターゲットは99%ジョー

ジョーは、ほとんどのプレーで背後にフリックしようとする。そのため斜めからのボールに対する扱いは成功が多いが、正面からのロングパスに対してはマーカーに競り負けることが多い。たまに手前に落としたりもするが、ジョーに蹴る時点で攻撃陣の距離感が遠いことが多く、ほぼフリック、もしくは競り合わない。

・GK含め、ランゲラックからのロングパスは正面コースが多い(ライン際を狙わない)ため、相手DFとしては競りやすい状況が多く、しばしばダイレクトなビルドアップでボール保持権利を失っている

 

【ダイレクトなビルドアップ:考察】

主なスイッチャーはGK。ただキックは真正直なボールが多く、ターゲットも決まっている。GKに持たせるようなプレッシングをかけて蹴らせ、ジョーに対してハードマーカーを必ずつけておけば、半分以上の確率でボールは回収できる。

ただし、小林裕紀やホーシャがフリーの状態で前を見たときに繰り出されるロングパスは意図があり、ジョーの頭ではなく胸より下の高さで送られ、手前に落として繋がるシーンもあった。ここは注意が必要。

 

【ポゼッションによるビルドアップ:分析】

ビルドアップ時の布陣パターン:相手のプレッシングに合わせて微調整は図られるが、主なパターンは以下の通り。

*第5節 鳥栖戦(守備時の布陣4-3-3)

パターン①:4-3-3でプレッシングしてくる鳥栖に対して、アンカーの小林が最終ラインに落ちて、片方のSBを押し上げる。SBに前向きな形でボールを送り、SBを起点に前方のWGとIHでトライアングルを形成して、ボールを第1プレッシャーラインから回避させる。

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パターン①の場合、プレッシャーラインを超えるボールを蹴る選手は押しあがったSB。トライアングルを形成してボールを受け、攻撃を組み立てるために、ボールサイドのWGとIHとの連携が非常に重要。

また、この時に、ボールを後ろ向きに受けることになるWGに対しては、相手SBがかなり激しく対応する。相手としては、ここのWGがボールの取り所にもなる。

それに対して、名古屋はSBからWGではなく、一度角度をつけてIHにつけてからワンタッチでWGに繋ぎ、IHがパスアンドゴーでハーフスペースを縦に走るというパターンも見せており、結構効果的だった(繋がればの話だが)

(独り言。鳥栖は横幅を3人でスライドして埋めるので、斜めのサイドチェンジがかなり有効なのだけど、名古屋グランパスはそれはしない)

 

パターン②:4-3-3でプレッシングする鳥栖に対して、アンカーとIHが落ちて5人のグループを形成し、3トップ脇のIHを起点にボールをプレッシャーラインから奥に運ぶ

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敵のボールサイドのIHは名古屋のSBについていく形になり、ハーフスペースが空く。ここに起点になったIHが入って前を向いたり、WGに預けて前を向く形。これは4-3-3で守る鳥栖には一定の効果が出ていた。これを続けることで、鳥栖は次第に5バック気味になっていた(IHが予め名古屋の高く押し出たSBをマークするため)

 

この後、鳥栖は5-2-3とバランスが悪くなっていたため、トップ下の小野裕二サイドハーフに下げた4-4-2にシステム変更し、バランスを調整していた。

4-4-2へと鳥栖がシステムを変更してからも、名古屋は基本的には5人グループでのビルドアップを続け、IHを起点にビルドアップを成功させていた。

すると鳥栖は、IHに対して、ボランチがそれぞれ飛び出してマーキングするようになったが、そうすると本来埋めるべきハーフスペースが空き、そこを名古屋のWGが活用しようとはしていた。(でもハイプレスに捕まり、そこまでボールを運ぶことには難渋していた)

 

パターン①、②含め、全てのビルドアップの方向付けやタイミングを担っていたのは小林だった。また、名古屋のビルドアップにおいては、IHが果たす役割は多岐にわたるため、この試合の長谷川アーリアジャスールと青木亮太はポイントとなっていた。

パターン①においては、SBが司令塔の役割を担うことになるが、右SBの宮原和也、左SBの秋山陽介共に、ボール出しの判断、タイミングを失敗するシーンが見られた。秋山は独力でプレッシャーを回避するドリブルを時折見せたが、低い位置でそれをしてしまうと、相手にとっては取り所となってしまう。

パターン②において、SBはサイドアタッカーとしての役割を担うことになる(高い位置でボールが持て、仕掛けられるので)が、宮原、秋山共にまだまだ改善の余地がある。要はボールを持たせても怖くない印象を持った。マーカーをつけておけば事故は起きない。

 

*第6節 札幌戦(守備時の布陣は3-4-2-1)

パターン③:上記2パターンの応用編。アンカーが落ちて3バックを形成し、両SBを押し上げる。IHは落ちすぎず、相手3トップの間に立って中央のコースを提供する。

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相手がハイプレス時に、マンツーマンであることを利用し、IHがあえて中央によることで相手マーカーを引きつけハーフスペースを空け、そこにWGが顔を出してボールを付けるパターン。

ポイントは2点で、ハーフスペースへのパスコースを潰さない各選手のポジショニングと、GKを用いることで最終ラインで数的優位を作り、効果的にボールを運ぶこと。

何度もGKをビルドアップに参加させ、相手のマンツーマンを剥がそうとする意図は見られたが、繋げる場面でランゲラックが前方にフィードしてしまうこともあった。この布陣の場合、IHもおりてきており、フォワードに対するサポート人数が少ないため、ロングフィードでボールが繋がる確率は低い。ランゲラックはもっとビルドアップに効果的に参加できるようになってほしい。

また、札幌はマンツーマンをあまり厳格には徹底していなかったため、WGの青木がおりてきた時に、マーカーがついてこない。そのため、名古屋のIHとで数的優位を作れ、そこでボールを前進させる場面も見られた。青木の状況判断が生きたケースだった。

 

*第7節 仙台戦(相手の守備時布陣3-4-2-1)

パターン④:この試合、名古屋は前半ミラーゲームを仕掛けたため、新しいビルドアップパターンが見られた。(後半はパターン③がほとんどだった)

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パターン③の変化版。仙台は落ちてくる名古屋のWGに対して、CBがそのまま行くのか、ボランチに受け渡すのかの判断に迷いがあり、結構このWGからビルドアップのルートが確保できていた。ここでも決まってWBはビルドアップには直接関与しない。

このゲームはランゲラックもビルドアップに参加する場面が少しあり、その際にはしっかりマークをはがせていた。

課題は、単純なミスが多いため、相手に高い位置でボールをプレゼントしてしまうシーンが多かったことと、仙台がWGに対する対応を修正してきたことによって、WGが後ろ向きにボールを受けた瞬間が仙台にとってのボールの奪いどころになっていた。

 

*第8節 鹿島戦(守備時布陣4-4-2)

この日の鹿島は4-4-2で挑んできたが、正直言って上の3チームに対して、対名古屋戦略があまり見えてこなかった。名古屋としては私が分析した直近5試合の中でも最も勝つチャンスがあったゲームだったと思う。

パターン⑤:4-4-2でのプレッシングに対して、ワシントンを最終ラインに落とすパターン。形としてはパターン②に似ている。

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鹿島は2トップの1stディフェンスが定まっておらず、容易に数的優位の選手がボールを運べた(主にそれをワシントンが担った)

ワシントンが第一プレッシャーを超えると、中盤は鹿島はボランチ2人に対して名古屋は3人確保できる。中盤を制圧できたことで、効率よくアタッキングゾーンにボールを運べたシーンが多かった。

また、WGやジョーの落ちる動き、IHの持ち上がりに対して誰がマークに行くのがの受け渡しや約束事が徹底されておらず、しばしば決定機に近いシーンを作ることができていた。

 

ただ現象としては、そこからのミスが多いのと、ボールを持つべき時に簡単にジョーに預けて植田や昌子にクラッシュされるシーンもあった。

また、中盤で数的優位が作れているのにもかかわらず、SBにボールをつけた後のアクションが乏しく、そこで詰まってしまって奪われることもあった。

自分たちが主体的にどうスペースと時間を作るのか、まだまだ落ちきっていない印象を受けた。

 

このパターン⑤は同じ4-4-2での守備を敷く次節の神戸戦でも採用された。

ただ神戸は鹿島に比べてプレッシングがかなり整理されていたため、持ち出し能力や剥がす力が乏しい名古屋のCBやSBはかなり狙われた。

 

【ポゼッションによるビルドアップ:分析】

アンカーとIHの選手がビルドアップを司っている。

特に、小林とワシントンはこのチームのビルドアップに欠かせない選手だ。この2選手には確実にマークをつけるべきと考える。

プレッシャーラインを越えるパスを出す選手は、パターン①においてはSBが多く、パターン②〜⑤においては、最終ライン、あるいはIHが担う。

このパスの出し手と受け手はある程度パターン化されているため、守備側としては受け手に対するプレッシャーがかけやすい。

シャビエルのようなスーパーな選手であれば独力で剥がすことも可能。

IHはビルドアップの起点、終着点、いずれの役割も担うため、このチームにおいては潤滑油と言える。課せられたタスクは非常に多い。適任は長谷川、和泉。青木やシャビエルもできるが、ボールを持ちすぎるきらいがあり、標的になりやすい(もちろん小林も。ただ小林はレジスタの方が向いている)

WGはビルドアップの終着点としての役割を担うが、このチームにおいては「ボールを収める」役割も課せられるし、コンビネーションによるプレッシャー打開も必要になる。深堀、押谷だとその点でまだまだ力不足だ。

長谷川も非常にクレバーという印象を受けるが、ポジショニングにやや不安定さがある。

CBはボールは持てるが、運べないという短所が垣間見えた。

SBは状況判断にかなりの課題がある。

GKはビルドアップに関与せず、ほとんどのバックパスをジョーに蹴る。優位性を確保できそうなシーンでも、結構蹴る。

そして、全体的に技術ミスが多い。これはトレーニングの効果がまだ出ていないのか。J1のプレッシングレベル仕様にまだなっていないのかはわからないが、あまりにもつまらないミスが多い。

 

パターン①、②(特に②)においては、SBに求めるタスクに、まだ選手が追いついていない印象がある。

パターン③のような、マンツーマンでハイプレスを仕掛けてくるチームには、GKのビルドアップ参加がポイントだが、名古屋はあまりそこが少ない。GKにボールを戻させれば、自然と回収できる仕組みになっている。

また、個人個人の距離が近すぎるのと、ポジショニングに角度がないため、パスコースが多いようで少ない状況になっている。相手としてはゲーゲンプレスもかけやすいし、ミスを誘発しやすい。

最終ラインで数的優位を作って、はがしながらボールをプレッシャーラインから越すことを試みてはいるが、せっかく優位性を持って比較的フリーにCBがボールを持っても、すぐに預けてしまったりする場面が多い。運ぶドリブルで相手のプレッシャーラインを超えることができれば、プラス2の数的優位が作れる。自分でボールを運ぶということにもチャレンジしてほしい。今の状態だと、相手としては小林にマークをつけ、CBを放すことでボールを誘う守備を取るだろう。

パターン④でも露呈した課題だが、最終ラインでのドライブで数的優位の貯金をWGに作ってあげることはハイプレス攻略にとって必須といえよう。

また、WB化するSBのタスクも整理しないといけない。J2時代は、ここに青木と和泉竜司を置いていたため、多くのシーンの起点が彼らとなったが、宮原と秋山は、残念ながらJ1のハードマークに対して苦労している。

パターン⑤で主に見られたが、ワシントンは布陣の穴や突くべき場所、スペースが見えている非常にクレバーな選手という印象を受けた。アンカーとして小林とは違う良さをうかがい知れた。

また、名古屋の修正すべき点として、いずれのパターンにおいても選手間の距離が近すぎることが挙げられる。また、ボールを受けるのはいいが、引きすぎるために、かえって相手にとってプレッシングのマトになったり、プレッシャーラインの前まで引いてしまうため何も生まれないことが多い。

 

この動画のシーンが、名古屋のビルドアップにおける個人戦術が足りていないことを物語っている。(CBのドライブ不足と、引きすぎて脅威になっていないもらい方)

 

また、ピッチ上における優位ポイントをグループとして理解せず、ボールを近く狭い方に流してしまう嫌いもある。(このシーンではマンマーク守備に対して長谷川が浮いており、小林もこちらのサイドに展開するよう指示を出しているが、ボールは左サイドの狭い方に流れ、結果詰まる)

 

【まとめ】

以上、パターン別につらつらと書いてみました。

名古屋の最大の特徴は、アタッキングサードでの数的同数あるいは優位な状況でのコンビネーションと、ガブリエル・シャビエルです。そのシーンを最大限作るためにも、彼をなるべくゴールに近い位置でプレーさせるためにも、クリーンな状態でビルドアップを完了させたいものです。