歴史的な馬鹿試合を生んだ理由(J2第26節名古屋グランパスvs愛媛FC)

【前置き】

 

実況の西岡アナ、解説の下村氏からも「野球の試合」と評された、先日の名古屋vs愛媛は、両チーム合わせて11点というJ2の歴史上、記録的な一戦となりました。

 

後半開始直後、特別指定選手であり現役大学生の秋山陽介の素晴らしいセンタリングを田口泰士が頭で合わせて4-0。これで勝負あったかと誰もが思ったと思います。

 

その後、愛媛の間瀬秀一監督の采配によってなんとスコアは一時4-4に。

58分に丹羽詩温のゴールで1点を返すと、69分からの4分間で3点を取りました。

 

この45分〜72分の27分間に一体何が起きていたのかを、できる限り客観的に検証したいと思います。

 

【前半の愛媛】

5-2-3という形で守る名古屋に対して、愛媛は3-2、もしくはボランチ小島秀仁をフリーマンにした形でビルドアップします。

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最終ラインとボランチでボールを動かしながら、名古屋の3トップの1st守備をゆっくりとズラしていきます。

その間にシャドーの選手、もしくはフリーマンの小島が名古屋のボランチ脇のスペース(いわゆるハーフスペース)にポジショニングし、そこでボールを受けて前を向く。

この、名古屋のハーフスペースを突く戦術は東京ヴェルディ戦でも解説した他、1トップ2シャドーを敷いてきた対戦相手はどこも狙ってきています。(大分とかも)

 

もう一つの戦術が、最終ラインの持ち出しです。

特に前半は左CBの浦田延尚が効いていました。それがこのシーンです。

 

どうしても中に絞りたがるガブリエル・シャビエルの1st守備の隙を突き、浦田が持ち上がっていきます。

シャビエルは無効化されているので、ボランチの田口がアプローチに行きます。

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その後、浦田は左WBの白井康介へ。そこに田口ともう一人のボランチ小林裕紀も付いて行ってしまい、バイタルエリアが空っぽに。

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 最後フリーになったシャドーの神田夢実ミドルシュートというシーンでした。

 

このシーン以外にも、愛媛はサイドで高い位置までボールを運んで、マイナスのセンタリングを入れ、そこにシャドーが引いて待ち受けて合わせるというシーンが幾つか見られました。

ボールサイドに全体がつられるのと、ラインがズルズルと下がり、中盤が吸収されてしまう名古屋の弱点は完全にスカウティングされている印象です。

 

前半は、WBはあくまでも幅確保のためであり、狙いはボランチ脇のハーフスペース。

しかしながら、そこにボールは入れるも、そこからの崩しに手間がかかったり、ラストパスやフィニッシュのクオリティが落ちてしまい、名古屋に止められてしまいます。

つまるところ、名古屋の守備を「後ろ向き」にできていないのが、前半の愛媛でした。

攻撃は最終ラインからの組み立てがほとんどで、名古屋は基本的には引いて受ける形。ギャップが生まれて、そこをうまく利用されても、ブロックに侵入したり、裏を取ったりする場面は無く、余裕を持って跳ね返せていました。

ボール自体はうまくポゼッションできていたのですが、ラストの精度が低く、その間に質的優位を持った名古屋が効果的な攻撃で3点をとってしまいました。

そんなこんなで、前半が終わります。

 

【後半の愛媛】

後半開始時は、前半と同じメンバーと布陣、戦術で入って行った愛媛ですが、48分に田口に頭で決められてなんと4点差になってしまいます。

前半のように、ある程度バランスを考えながら丁寧に攻める余裕が完全になくなり、リスク度外視で攻めるしかない愛媛。ここで間瀬監督が動きます。

51分に、近藤貴司と丹羽詩温を投入に、攻撃時の布陣を3-2-5から3-1-6(細かく言えば3-1-4-2)に変更します。それに伴う戦術的変更点は以下の2点です。

・3-1でビルドアップ

・WBは幅確保のための囮ではなく、攻撃の起点として積極的に使う。

まず、ビルドアップの形を変えたことで、名古屋の守備が整う前にサイドにボールをつけることができるようになりました。

そして何より、前線の枚数を増やすことで、ネガティブトランジションがかけやすくなりました。つまり、ゲーゲンプレスの形を得ることに繋がり、前半許していた名古屋のポゼッションを防ぐことと同時に、名古屋の守備組織が整う前に二次攻撃を仕掛けることができるようになったため、名古屋の守備を後ろ向きにさせることができました。

もう1つ大きな点が、名古屋と愛媛の戦力を比較した際に、唯一質的優位に立てる部分が、

・愛媛の両WBの攻撃力vs名古屋のWBの守備力

・愛媛のFWのクロス対応vs名古屋のDFのクロス対応

多少汚い、オープンなゲームになろうとも、この質的優位を効率的に攻める方法に変えました。

 

<愛媛の1点目>

前に人数をかけているため、奪われた際のリアクションに厚みが出ます。

名古屋にカウンターを許さず、ボールを奪い返します。

右WBの青木がカウンターのために上がろうとしていたところだったので、右に大きなスペースがあります。かつ中の人数は3-1-6で前に人数をかけられています。

 

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ボールの配球に定評のある林堂眞から、左のオープンスペースにシンプルにボールを出して、白井からのセンタリング。名古屋の最終ラインがボールウォッチャーになっているところうまく抜け出した近藤が頭で落として、丹羽が合わせます。

中での駆け引き、勝負なら負けないぞというところです。

 

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<愛媛の2点目>

中盤で小島が小林のアプローチをかわして前を向きます。

前に人数が揃っているので、一度縦につけて行きたい場面ですが、彼は迷うことなく左のオープンスペースへフィード。

攻撃面で大きな違いを見せた青木ですが、守備力はイマイチ。そこに攻撃力のある白井をぶつけて行きます。

その後青木を抜き、カットインしてスーペルミドルを叩き込みます。

シュートも見事ですが、小島の迷いなきフィードを見るに、多分後半徹底してサイドを(むしろ白井を)使って、中で勝負しろという指示が出ていたものと思われます。

 

<愛媛の3点目>

 

深い位置からのカウンターです。浦田のインナーラップと河原の最終ラインとの駆け引きとシュートの巧みさが際立っているシーンです。

ここでも、名古屋の最終ライン(多分酒井)がオフサイドトラップをし損なっています。イム・スンギョムが負傷交代した直後のシーンでもあったので、名古屋は色々とゴタゴタしていました。

リスクを負って上がってきた浦田が見事でした。

 

<愛媛の4点目>

3点目を取られたところで、名古屋は5-2-3から4-4-2に布陣を変えます。

白井のところをやられているので、サイドに人数をかけて蓋をしたいという意図があったように思います。

ただ、最終ラインの人数を少なくしてしまったことは、今日のゲームにとっては負の方向に働きます。

まず、中盤のプレッシャーがかからず、簡単に白井へのフィードを許してしまいます。

白井に対しては、右SBに移った宮原と、右SHに変わった青木のダブルチームで対応に行きます。

しかしここでも白井にセンタリングを許してしまいます。

システム変更して間もない名古屋の最終ラインと、人数をかけて虎視眈々とサイドからのボールを狙い続けている愛媛の攻撃陣。中のマーキングも合わず、丹羽にボレーを決められてしまいます。

 

愛媛は後半、愚直に取り組んできたことが実を結び、遂に同点に追いつきます。

 

<その後>

名古屋はなりふり構わず、6-2-2で後ろの人数を完全に合わせます。

そこから交代したフェリペガルシアや玉田圭司、そして絶好調のシャビエルや青木や田口の個人能力を前面に活かした攻撃を発揮し、個人能力を効率的に融合させてそこから3点を叩き込んで、結果的に7-4でゲームは終わりました。

愛媛としては、力尽きたという感じでしょうか。名古屋は出てくる選手も残ってる選手もクオリティが高かった。

 

<まとめ>

馬鹿試合を生んだ理由、言い換えれば、愛媛が4点ビハインドを一時は追いついた理由を動画を中心に考察してみました。

下記の点がポイントだったと思います。

①布陣を変更し、前線の枚数を増やした

→放り込み後のゲーゲンプレスがかけやすくなり、前半名古屋に許していたリズムを取り戻すポゼッションを許さなかった。

→ゲーゲンプレスによってボールを高い位置で奪い返せたことによって、名古屋の守備を混乱させることができた

②質的優位のみに徹底してフォーカスした

→左WB白井に早めにボールをつけ、名古屋のサイドの選手の守備の脆さを突いた

→中の人数を最終ラインと揃えることで、サイドからの攻撃に弱い名古屋のディフェンスの脆さを効率的に突くことができた

結果、ボールを保持することでリズムやインスピレーションを生み出す名古屋に対して、ボールを保持させず、名古屋が最も苦手とする、後ろ向きの守備・サイドを起点にした守備という、名古屋にとって不利な状態を作り出すことができました。リスクを負うことによって。

 

前半決して悪くない出来だったのですが、結果的に開き直れる点差になったことで、前線をフレッシュにし、自分たちのストロングのみを出す環境にした間瀬監督の戦術的、メンタル的なアプローチは見事でした。

また、自分たちのウィークポイント、名古屋のストロングポイントはあえて無視し、名古屋のウィークポイントを確実に突いていくことができたことも大きな要因です。自分たちがどういう状況であれば、名古屋に対して質的優位を生むことができるか。全員が共通認識を持っていたからこその4得点だったのだと感じます。

そして、上記の戦術変更を遂行したベンチ決断力の強さは評価に値すると思いますし、それをやりきった選手たちも見事です。

愛媛サポーターの方々は是非讃えて欲しいと思います。

 

最後に、愛媛が後半に表現したかったことが詰まっているシーンを添付して、今回のエントリーを終えます。

 

「相手の嫌がることをする」ことは、相対的なボールゲームにおいて非常に大切な観点です。

そして、それを「自分たちのストロングポイントを用いて」することができれば、より相乗的な効果が期待できるんだろうなぁと、学ばせてもらった一戦でした。

愛媛は、「名古屋が嫌がる」こと、もっと言えば「名古屋が名古屋らしさを出せない状況」を、リスク度外視で「自分たちのストロングポイント」のみを使って作り出しました。

ゲームに勝つには、自分たちのことを知っていないといけないのはもちろんですが、やっぱり相手のことも知る必要があります。

最後の名古屋の3得点のように、相対的な駆け引きだけでは埋まらない差はもちろん存在します。

ただ、そういうアプローチを常に心がけておくことは非常に大切だと思います。

名古屋も、自分たちのストロングポイントが、うまく相手のウィークポイントにハマるようなゲーム設計をしていくだけでだいぶ違うと思うんだけどなぁ・・・(最後は愚痴でした。)

 

徳島ヴォルティスの強さの秘密を戦術的観点から探る(J2第22節名古屋グランパスvs徳島ヴォルティス)

【前置き】

ヴェルディvs名古屋の戦術的考察をした際に、論理的なフットボールを展開しているチームとして、ヴェルディの他にもう1チーム挙げたのを覚えていらっしゃいますでしょうか。

 

そうです。徳島ヴォルティスです。主にネット上で、スペイン人の新監督であるリカルドロドリゲス監督率いるチームのクオリティの高さを賞賛するエントリーをよく目にしますね。

 

確かに素晴らしいパフォーマンスを発揮しています。果たして、彼らは何に優れているのか。それを先日の名古屋グランパス戦から読み解くのが、今回の目的です。

 

試合を時系列で追いながら、徳島の戦術的キーポイントを押さえる流れで進めていきます。

 

キーワードは、「位置的優位性」「数的優位性」「非対称」「縦軸」

ポイントとなる戦術は「ビルドアップ」「切り替え」「プレッシング」

 

【0〜15分】

名古屋のスタメンです。攻撃時はワシントンアンカーで、和泉竜司と田口泰士が前後に顔を出しながら攻撃をクリエイトしていく4-1-2-3。

守備時はウイングの深堀隼平と八反田康平が1列下げった4-1-4-1で中盤センターを厚くします。

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対して、徳島のスタメンです。

攻撃時も守備時も基本システムは4-3-1-2。

徳島は様々なシステムを使い分けるのが特徴ですが、ほとんどの試合で固定されているのが、岩尾憲のアンカー起用と、2トップシステムです。

その意図は後ほど考察したいと思います。

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徳島の守備コンセプトは、「数的同数」プレッシングです。

目的は2つ。相手のビルドアップのリズムを崩してミスを誘う(あるいは、誘引したパスを奪う)ことと、敵陣でボールを回収し、効率的にフィニッシュまで持っていくためです。

そのために、徳島は2トップを常に採用しています。

相手が4バックチームで、CBの2人でビルドアップを開始する場合は、そのまま2トップがアプローチして、後ろの選手もそれに呼応します。

例えばそこにアンカーを落として3on2の局面を作ろうとしてきたチームには、トップ下の選手がアンカーにアプローチして、数的優位を作らせません。

それは3バックのチームに対しても同様です。相手のビルドアップのやり方に対して、プレッシングの仕組みは微修正しますが、基本的なコンセプトとしての数的同数プレッシングを保つために、基本的に徳島はどのようなチーム相手でも、2トップを採用します。

縦のコースを消しながら、ボールをサイドに流していき、インサイドハーフとSB(WB)で回収してカウンターというのが1つの戦略です。

 

それでは、序盤の名古屋のビルドアップに対する徳島の守備戦略を見ていきます。

 

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局面は、左から右に攻める名古屋のビルドアップシーンです。

名古屋のビルドアップの基本コンセプトは、2人のCBからボール前進をスタートさせます。そこにアンカーのワシントンや、田口がサポートしながら、ボールを敵陣に運んでいきます。つまり、SBはあくまでも逃げ場で、理想は2人のCBと、2人のMF(計4人)でボールを敵陣まで運ぶことが理想と考えているチームです。

 

そのスカウティングを踏まえて、徳島は2トップをそのまま名古屋の2CBにぶつけ、アンカーにトップ下の島屋八徳をアプローチさせて、ボールをサイドに逃させます。

そこにボールサイドのインサイドハーフや、SBが詰めて回収します。

奪った後は、一番近くにいるMFの選手に横パスや横移動でボールを逃して、前線に残る2トップとトップ下にボールを付けて、効果的にカウンターを繰り出します。

この、守備から攻撃に切り替わる時のボールの運び方も、徳島の大きな特徴です。

なぜ、アンカーシステムを常に取るのかという部分で、後ほど触れたいと思います。

 

厳しい徳島のプレッシングを前に、ボールをなかなか前に進められない名古屋は、打開策として1つの回答を示します。それが3分。

 

最終ラインでボールを持った小林裕紀が、中盤を経由せず、良い動き出しを見せた深堀にフィード。それを胸で和泉に落とし、左足でアーリークロス

永井龍が最終ラインを抜け出してワンタッチボレーを見せました。

 

パスセンスのある小林を最終ラインで起用するポジティブな効果が示したシーンでした。(シュートは枠外)

 

ただ、基本的には徳島のプレッシング戦略がはまり出しているかなー?という立ち上がり。

 

そして6分、CKをゲットした徳島は、岩尾のキックに井筒陸也が頭で合わせて先制点を取ることに成功します。

 

このCKにも徳島の名古屋対策が見て取れます。

 

マンツーマンで守る名古屋ですが、マークの確認や対応がルーズなところがあります。

湘南戦でも露呈したポイントなのですが、そこを徳島は突いてきました。

 

徳島のCK時の布陣は1-1-6-2です。キッカー、ニアサイド、ファーサイド、背後です。

6人の内訳と、それに対するマーキングは以下の通りでした。

大崎玲央ーワシントン

渡大生ー永井

山崎凌吾ー櫛引一紀

藤原広太朗磯村亮太

井筒ー小林

島屋八徳ー宮原和也

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そして、キッカーが蹴る瞬間に、井筒が小林を振り切ってフリーになります。

と同時に、渡・山崎・島屋はニアサイドとファーにそれぞれ走り込んでマーカーを撹乱させます。(分かりづらいですが、一番手前の小林が振り切られてバランスを崩しています)

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果たして、フリーになれた井筒がダイビングヘッドでプロ初ゴールをもぎ取ります。

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マンツーマンを敷くチームに対する、オーソドックスな戦術の一つです。

ファーでレシーバーが固まって、同時に三方向に進んでカオスを作る。

しかもこれは、マーキングに難のあるチームに対してより有効です。

この辺りも、しっかり名古屋対策をしてきていることがうかがえました。

 

先制点を許した名古屋は10分に、風間監督が八反田に指示し、布陣を4-1-2-3から、4-4-2に変更します。

前線のターゲットを2枚にすることで、3分に見せたような形で、徳島のプレッシングを回避しつつ、ビルドアップの逃げ場であるサイドに人数をかけることで、しっかりボールを保持するためだと思われます。

 

ただ、徳島もハイボールには大崎と藤原がしっかり対応して、名古屋にリズムを作らせません。

 

【15分〜30分】

この時間帯で、徳島のプレーモデルが体現されたシーンがいくつか出てきます。

ポジショナルプレーとゲーゲンプレスです。

 

右SBの馬渡和彰がかなり高い位置に張り、最終ラインの全体が右にスライドしていきます。

この時点で、徳島の右サイドでは、櫛引に対して2on1の数的優位をポジショニングによって作れています。

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名古屋の前線からのプレスが組織的でないかつ強度が弱いため、そこまで足元の技術が高くない徳島のCB2人も、この場面では比較的余裕を持ってボールを持ち、数的優位ゾーンにボールを出します。

 

その馬渡にボールを付けると、名古屋の守備陣は一瞬対応を躊躇します。

櫛引は23番前川大河のインサイドアウトのフリーランをケアしないといけないので、それに引っ張られて馬渡にプレッシャーをかけられない。

本来であればサイドハーフの和泉が対応すべき選手ですが、彼は高い位置に残ったままなので、ボランチのワシントンが左に引っ張られます。

 

すると、そこのスペースにしっかり2トップの1人である17番山崎が顔を出してボールを受けます。本来は小林が付くべきなのですが、小林も23番前川のランニングに釣られてしまっています。この辺りにも、マークやゾーンの受け渡しに対する準備不足が見て取れますし、徳島が各々の役割を明確にすることによって、フリーの選手を局面局面で作ることに成功しています。そして全ての選手がそれぞれの役割を担えることも特徴です。ですから、徳島の中盤から前線にかけては、ローテーションが効くわけです。守る側からすると、誰を抑えておけばいいのか、混乱に陥りやすくなります。

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その後ボールを一旦は失いますが、敵陣で人数をかけてネガティブトランジションに備えている徳島は、名古屋の迎撃を前向きで潰すことに成功します。

必ずアンカーの岩尾が、相手の危険なところを埋め、ボールを奪い返した際は、カウンターの経由地になったり、トランジションの際にもかなり効いている選手です。

徳島の最終ラインは名古屋の2トップに対して数的同数で対応しています。

これは、一般的にはリスキーなリスクマネジメントと考えられることが多いですが、後ろの人数を余らせるよりも、敵陣での強度の高いトランジションを展開するために、あえて勇気を持って前に人数を割いています。

これも岩尾のフィルター力やカバーリング力があってこそです。

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カウンターに対するカウンターは、最も相手の組織が乱れている状態であるため、かなり効果的に攻撃を展開することができます。

(これはゲーゲンプレッシングとも言われているコンセプトです)

名古屋は人は足りているものの、完全に組織として崩壊させられ、あわや失点というシーンを招くことになります。

 

徳島は、相手の1st守備の人数と同数のCBを配置して、岩尾を1列前にアンカーとして置いて攻守においてフォローさせるという戦略を持っています。 

 

つまり今日の前半の名古屋のように、2トップでプレッシングをしてくるチームには、2CB(つまり4バック)プラスアンカー。

1トップや3トップでプレッシングしてくるチームには、1CB(つまり3バック)or3CBプラスアンカーでそれを回避にかかるわけです。

相手の布陣や、プレッシングの仕組みに合わせて、最終ラインの構成や、求められる役割に応じて人選も変えてくるのが、リカルドロドリゲス監督の「相対性」を如実に示していますし、アンカーとして君臨する岩尾が外せない理由も、確かな技術と頭の良さに所以があるわけです。

下記に、徳島のポジショナルプレーのパターンを図式化しています。

全て、相手のプレッシングの仕方に応じて、布陣やボール循環の流れを微修正しています。

<相手の1st守備が1人の時>

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(基本的には相手の1人に対し、徳島も1人+アンカーで数的優位確保)

 

<相手の1st守備が2人の時(前半の名古屋がこれにあたります)>

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 <相手の1st守備が3人の時>

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(後ろを3バックにして、人数を揃える。)

 

 

【30分〜45分】

 まず32分に徳島の優れたボール前進の仕組みが見られています。(上の図でいう2つ目、相手の1st守備が2人の場合の図とよく似た構造です。)

 

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局面は右から左に攻める徳島。左SBに入った井筒がボールを持った瞬間の中盤のポジショニングを確認ください。

 

ピッチを縦に5分割し、それぞれのレーンに選手を配置して攻撃するコンセプトが今トレンドとなっています。

目的の1つとして、中央とサイドの間のレーン(ハーフスペース)を活用すること。そしてこのコンセプトは基本的には4バックのゾーンディフェンスのチーム相手に効果を発揮しやすい。

ハーフスペースは、中央の選手とサイドの選手の境目のスペースであり、管理が非常に難しい。 

徳島はこの縦軸コンセプトを、ビルドアップにおいて昇華させ、効果的なボール前進を見せていました。

同じレーンに人を配置せず、それぞれのレーンに効率的に人を配置し、パスコースを確保するため、徳島は中盤の構成をダイヤモンド型にしています。

この型をボールを前進させながら、各々がローテーションしながら全体として前に進めていくわけです。

ですので、このシーンの場合、アンカーの岩尾という逃げ場も確保し、更に、トップの渡が左サイドに落ちてきたことで、縦にもコースを作り、更に、ハーフスペースを開けて、そこに一筋の最も効果的なパスコースを作ることに成功しています。

 

 そのパスを受けたトップの山崎がワンタッチでトップ下の島屋に落とします。

ここでも、型とボールが一緒に動いているので、パスコースが複数確保されています。

この後ボールを失いかけますが、ダイヤモンド型に人が確保されているので、ネガティブトランジションがかけやすく、すぐにボールを奪取します。

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つまり徳島は、相手のシステムやプレッシングの仕組みを鑑みた位置的優位性を確保し続けることで、システム上のズレを各所に作って、そこを突破口にしていっています。

 

このように、ズレた場所に人を配置する位置的優位性、相手に対して人数を確保する数的優位性、全体を非対称にすることで、馬渡の単騎突破をオプションとして保持できる質的優位性。これらの優位性を備えたポジショナルプレーを展開できているところが、徳島の強さの秘密の一つと言えます。

そして、全ての選手がローテーションしながら、埋めるべきポジション、進むべきポジション、使うべきポジションを活用できています。それこそがポジショナルプレーです。

 

この状況にしびれを切らした風間監督は、プロ初スタメンの高卒ルーキー深堀に見切りをつけ、33分に杉森考起を投入します。

 

彼の良さは、ボールを引き出すためのアクションの豊富さと、量。そして狭い局面での確かな技術力です。

その良さが出たシーンがありました。

 

相手からフリーになってボールを嫌なエリアで受け前を向き、八反田とのパスワークでアタッキングエリアに侵入していきます。そして結果PKを獲得します。

こうした相手を外す動きを含めたボールの受け方と、その後のプレー精度が格段に向上してきています。これは風間監督の指導の賜物でもありますし、彼の潜在能力でもあります。深堀も学ぶところが多いのではないでしょうか。

 

このPKを決めきれていれば、少し流れも変わった気はするのですが、結果的には長谷川徹にストップされてしまいます。

杉森の投入で少しリズムを取り戻しかけたように見えた名古屋でしたが、PK失敗も含め、簡単なパスミスが連発し、自分たちでペースを持ってくることができませんでした。

 

一つだけ名古屋の守備の脆さを指摘します。

35分の前川の決定機です。

 

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名古屋の442のゾーンが適切に敷かれていないことは一目瞭然です。

最終ラインからトップの選手に矢印で示したパスコースを一発で通されます。

ちょっと考えづらいです。

 

これも徳島は少し工夫していて。トップ下の島屋が左サイドの高い位置にポジショニングしています。名古屋のボランチからすると、本来マークすべき選手がいないので、中央にはいるものの、無力化されています。

 

その後、左サイドの島屋にボールを付け、斜めのボールをバイタルエリアに入れます。

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磯村は山崎の、小林は渡のマークで中に引っ張られ、前川の2列目からの飛び出しについていけないボランチ。最後は左SB櫛引の絞りと楢崎正剛の好セーブでしのぐかたちになります。

前回のブログでも、名古屋の守備には基本コンセプトがないため、ゾーンと人、それぞれがそれぞれの事情で対応する結果、簡単にスペースを作られやすいと指摘しました。

このシーンでもCB間が相当空いてます。使われなかったですが、潜在的な欠点は修正されていません。

 

そんなこんなで前半が終了しました。

最もチームのコンセプトが出る前半に多くのリソースを割き、分析してみました。

後半は暑さから来る疲れや、その場その場での戦術的対応がメインになるため、ゲーム分析では重要な45分ですが、今回の目的は徳島のプレーモデル・戦術分析なので、後半は少しエッセンスを絞ってみてみます。

 

【45分〜60分】

後半開始から、徳島は下の図のようにシステム変更をしてきました。(前川と杉本太郎は頻繁にポジションを変えます。どちらがはっきり右、左っていう決まりは無さそうです)

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後ろの人数を3枚に変えました。意図として、名古屋は守備時に杉森が右サイドに落ちることが多く、4-1-4-1の形で1st守備が永井の単騎になることが多いため、ビルドアップ要員として2人CBを置く必要が無くなったためだと考えられます。

つまり、ビルドアップの始まりは上の図の1枚目のような格好になり、大崎と岩尾で運ぶ形に変えました。

馬渡を得意の左サイドに持っていくことによって、杉森投入により、名古屋の活性化しつつあった右サイドを封じる意図もあったと思います。

開始早々、右で作って、左で張ってる馬渡に渡してカットインからのシュートというシーンが見られました。

 

48分、長谷川のビッグセーブ

49分、CKから決定機も、ポストに阻まれる

55分、2トップが高い位置でボールを収めて起点を作り、高い位置で張る馬渡へ。縦に切り込んでGKと最終ラインの間に速く低いセンタリング。

楢崎が一旦は弾くも、こぼれ球を杉本が押し込んで徳島が待望の追加点を得ます。

名古屋相手には、どのチームも、サイド深くえぐってのマイナスのセンタリングを仕掛けるチームが多いです。

ボールウォッチャーになることが多いのと、楢崎の守備範囲を考慮してのものだと思われます。

57分に、和泉に変えてシモビッチを投入します。永井が左のサイドハーフに移動。布陣は4141のままです。

 

【60分〜75分】

3バック+岩尾での優れたビルドアップからアタッキングサードを狙ったシーンが60分でした。

名古屋の3人でのプレッシングを数的同数のCB+岩尾で否しながら、縦軸を用いたサイドでのパス交換でディフェンスラインの裏を突きました。布陣は異なれど、プレーモデルが同じなので、相手に合わせて再現性のある崩しを披露することができます。

 

66分には前川に代えてカルリーニョス

名古屋も永井に代えて佐藤寿人を投入。

徳島は攻撃時は3-1-4-2のままですが、守備時は中盤の中央が3枚並んでフィルターをかけ、両WBが最終ラインまで落ちた5-3-2のシステムで名古屋の攻撃に対応する形に変えました。

対する名古屋は、佐藤とシモビッチの2トップに変更し、全体も4-4-2に戻しています。

ただ、攻撃時はサイドハーフの杉森と八反田がかなり中に入って、2トップに近い位置でプレーすることが多いです。

72分、杉本に代わって19番内田裕斗が入り、これをメッセージに徳島は守備の布陣を少し変えます。

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2点リード、かつ相手の4人の攻撃陣(特に杉森)の脅威に対して、リカルドロドリゲス監督は、リスクを負うよりも、リスクをかけない戦略に変更します。

具体的には、1ボランチシステムをカルリーニョスと岩尾を並べた2ボランチにして、相手の4人の攻撃陣に対してしっかりと1枚余らせて対応させます。

その裏を、突破力のある馬渡と、フレッシュな内田で突いてカウンターを狙うという戦略です。

 

74分、セットプレーから櫛引のヘッドは今日2本目のポスト。

 

【75分〜90分】

徳島のシステム変更によって、恩恵を受けた人物がいます。

田口泰士です。

それまでは数的同数プレスによって自由をあまり与えられなかったのですが、田口とワシントンには島屋が1人で見る形に変わったため、中盤で余裕を持ってボールを持つシーンが増えてきました。

76分には自らがかけ上げってボレーを放つシーンも見られます。このゲームで最も良い流れだった時間帯と言っても過言ではないです。

それほど今の名古屋は田口泰士のゲームメイク力に依存しているわけです。

リカルドロドリゲス監督は、2点差で残り15分という状況と、杉森考起の脅威を考えた時に、後ろの人数を確保する代わりに、田口を自由にすることを選んだと言えます。

名古屋は確実に息を吹き返してきていたのですが、最後のところで呼吸が合わなかったり、技術的なミスが起きて、なかなか決定機を作るまでには至りません。

八反田はかなり疲労しているように見えました。ボールが足につかない場面も。

 

リカルドロドリゲス監督は、最後のカードとして渡に代えて木村祐志を投入します。

疲労が見える島屋の分も走って中盤のサポートをさせます。田口が自由になりつつあっただけに、そこも抑えて欲しいという狙いがあったと思います。

82分、長谷川の3回目のビッグセーブ

 

そして試合はそのまま0-2で終わりました。

 

【総括】

長谷川の数多のビッグセーブが無ければというゲームでもありましたが、結果をたらればで語るのが今回の目的ではありません。

徳島の強さの秘密が少しでも垣間見ることができたなら本望です。

 

本日は、下記のような特徴を中心に検証してきました。

・2トップシステム設定の意味(攻守において、トランジションで優位に立つため)

・アンカー岩尾の速攻遅攻、攻守トランジション時における戦術的重要性

・ポジショナルプレーをコンセプトにした、相手のプレッシングを無効化し、全体でボールを運んでいくための中盤ダイヤモンド

・馬渡を用いた非対称や、最終ラインのビルドアップの仕組みや布陣など、それぞれの戦術が、相対性を持って実装されていること

 

これらをわずか数ヶ月のうちに、結果を伴って仕込んできたリカルドロドリゲス監督、論理的な発想のみならず、それをピッチ上で体現させる指導力や、そもそもの相手チームの分析力、そしてモチベーターとしての推進力、全てが高次元で噛み合っています。まさに名将です。

 

長くなりましたが、後半戦の徳島の戦いにも要注目ですね。

書きたかったから、書いた。(名古屋グランパスの過去と現在と未来)

名古屋グランパスの新しい最初の船出も、もう折り返しを迎えようとしている。

現時点での状況を皆様はどう捉えていらっしゃるだろうか。

今回のブログでは、名古屋グランパスが掲げるコンセプトと、それに対する期待と懸念、今後起こりうる状況についてを、できる限り客観性を以って整理したい。ここから先は、私自身の頭の中の整理のために書きたいと思っている。

なお、風間監督を中心とした今年の首脳陣が、具体的にどのようなアプローチをして、チームビルディングを図っているのかはここではあえて詳しく記述しない。

 

 

 

今シーズンの名古屋グランパスは、数的優位で立ち向かう相手に対して、最小人員で打開することを目指したチーム作りをしてきたと言える。例えて言えば「4人で守る相手に対して、1人ないしは2人(最小人数)の相互の技術を高めることで剥がしていく」ことをコンセプトにしているように見えた。

これに関しては、ある一定のレベルのチーム相手には通用してきた。それは、個人のボールを扱うテクニックやコンビネーションプレーの他に、高さや速さ、対人の強さも含めてである。

「ボールを適切な場所に止めて、適切なタイミングで、適切な精度を以って繋ぎ、ボールを前進させていく」という明確なコンセプトを基に、時にはフェリペ・ガルシアやシモビッチの運動能力の高さや、杉本竜士のサイドでのスピードを持ったボール運びなど、飛び道具も使いつつ、個人の能力や技術を発揮できる状況において、「質的優位」を以って結果を出してきた。

そのアプローチによって、花を咲かそうとしている金の素材が、杉森考起であり、青木亮太である。

そして、本来持つ対人能力やボールを扱う技術の高さをピッチ上で発揮できつつある田口泰士、和泉竜司、玉田圭司が、まさにピッチ上で躍動している。

 

名古屋のマクロ的なゲームコンセプトは、「ボールを保持=ゲームを支配」という絶対的なプレーモデルを基に成り立っている。ゲームを支配するということは、言い換えれば「ゲームを自分自身で能動的に動かすことができる」ということだ。

相手にボールを持たせることによって、コントロールするチームも世界にはいるが、そこは指揮官のイデオロギー次第である。

ミクロ目線では、局面局面での小さな集合体(ユニット)の精度を極限まで高め、それを結びつけていきながら、結果的に最大公約数を得ようとするものだ。

その視座で考えた時、稀代の革命家がよく口にする「ポジション・フォーメーションなどは存在しない」と言う言葉の意味が見えてくる。ポジションや布陣に囚われず、あくまでもボールエリアで生まれる個々のユニットの精度を上げ、それに連続性を持たせることを信条としている。例として、ここまでの指揮官の起用方法を見ると、FWの選手をWBやSBと思われるポジションに位置させたり、これまでMFをしていた選手が最終ラインでプレーさせたりしている。あくまでも、11人の「ボールプレーヤー」がその場その場でユニットを構築して、相手を翻弄していくことが目的だ。

 

序盤は、ユニットそのものに精度が足りず、各局面で相手を上回ることに手こずっていた節があった。それは当然だ。これまで教えられてきた「サッカーの試合」に対する考え方と180度異なるからである。今までは、「相手がこうしてくるだろうから、お前はここにポジションを取って、ここを狙え。」「守備はここを気をつけろ。」「あいつは足が速いからスペースを与えないようにしろ。」など、相手の特徴を踏まえて、指示を出す指導者がほとんどだった中で、現監督は相手の出方には何も言及しない。あくまでも「自分たちがどうプレーするか」だ。

そのアプローチにいち早く呼応した選手が結果、もしくはピッチ上で存在感を示し始めたのを機に、チームは上で述べた局面での「質的優位」で勝ちを拾い始めるようになった。筆頭格が、永井龍であり、内田健太であり、玉田だ。そして常にチームの潤滑油として機能した和泉や宮原和也が支えた。

 

だがここに来て、ある一定のレベルを超えるチームに対しては、ユニット単位での脅威を発揮できていない。原因は相手側、そして自分たち、それぞれに理由を考えることができる。

<名古屋がプレーモデルを発揮できない相手の特徴>

・ユニットに立ちはだかるための組織力の向上(研究が進んで来ている)

・それを遂行する選手の能力が高い

<名古屋がプレーモデルを発揮できない自分たちの原因>

・相手の組織的な対策を上回るユニット精度を発揮できていない

・組織でのアプローチを実装していない(要は即興性が高く、再現性が低い)

 

その原因をもう少し紐解くと、勝てる相手には、弱みをマスクできる個(ユニット)の強さで押し切れているが、その上を超えてくるチームに対しては、強みを発揮できず、弱みがさらけ出されてしまう。

弱みを補うことよりも、徹底的に強みを作る、あるいは伸ばすことをコンセプトにチーム作りを進めているため、他のチームよりもその点が「脆く」映るのである。

そしてその強みは即興性で生み出されることがほとんどなので、どこかが噛み合わないと、二度と生まれてこない危険性も秘めている。(実際に、ほとんど90分間何もできずに負けた、あるいはなぜか勝てたゲームも少なくない)

 

その色合いが個人的に濃く映ったのが、先日のホーム長崎戦である。

名古屋に対して、個人能力の相対的な低さを組織力で補って来た長崎相手に、ゲームとしては2-0で勝てたが、内容は乏しかった。

通用して来た各局面でのユニットが機能不全に陥り、ボールを効果的に前進させることができなかった。長崎の選手に決め切る能力がもう少しあれば、負けていてもおかしくないゲームだった。

先ほど上で述べたように、長崎以上の個人能力を持つチームであれば、今後もっともっと手こずることが容易に想像できる。

 

指揮官はこの現状に対して、ユニットの精度を極限まで高めることで打破しようとアプローチを強めるだろう。オンオフ問わず、ボール扱いに慣れた選手だけで11人を組む方針は今後も変わらないと思われる。なぜなら、それが我々が我々の運命を託した人間の確固たるイデオロギーだからだ。イデオロギーを放出した瞬間に、人間は人間ではなくなる。

この方針に対して、色々な意見が飛び回っていることは周知の通りだ。守備を固める戦術を落とし込むべきだという声もある。攻撃において、もっとシモビッチの高さを効果的に使ったり、ロングボールを多用するなど、シンプルかつダイナミックな展開も取り入れるべきだ。攻守におけるセットプレーの訓練も深めてほしい。等、皆様が思い浮かべる要求や意見、不満は数多だと想像できる。

 

正しいことなんて、誰にも分からない。その全てが正解であり、誤りになり得る。

そして、1番大切なことは、最終的に何を目指しているのか。時制を持った目的をどこに設定しているのかである。

「1年でのJ1昇格」が絶対的な目標ならば、1点を守り切る対策が必要だ。守備を整備することもそうだし、そういった選手を起用、獲得することも選択肢になり得る。

風間氏的なコンセプトで言えば「ボールを奪われない」保持能力を高めることも対策の一つだ。

これが、J1やアジアで勝てるチーム作り(早急な昇格が優先順位として高くない)の場合は、もしかしたら今のアプローチで良いのかもしれない。ただ、ユニットとユニットを有機的に繋げる方策は必要だと思うが。

ただ、私はこういう考え方もあると思っている。現在のアプローチで相手を凌駕できていない状況で昇格したところで、格上しかいないJ1で通用するわけがない。という意見だ。

要は、J2を複数年かけてコントロールできた個やユニットに、果たして未来はあるのか?という問いである。

J1昇格即結果を残して来た過去のチームはどういうアプローチをしていたのかを振り返り、再帰性を探ることも、重要な活動である。柏レイソルは?ガンバ大阪は?サンフレチェ広島は?

 

そういったことを踏まえた上で、以下、私なりに現実的な改善策を提案してみる。

個人的には、長くJ2に留まることは、チームの成長にとってはプラスになりづらいと考える。経営的な観点は今回は割愛して、純粋にフットボールにのみ焦点を当てている。

プラスになりづらいと考える大きな理由の一つは、相手(リーグ)のレベルだ。

人間はどうしても相手のレベルに慣れてしまい、域値が下がる。いくら自分では意識を高く持って日々を過ごしていようが、J1で数シーズン戦ったり、ACLという過酷な環境でフットボールをすることで得る経験値に勝てる舞台や環境をJ2に求めることは現実的に難しい。ハングリー精神や、フットボールができる喜びを感じることはできても、プレーヤーとしてのピッチ上での質は、高いレベルに身を置く方が高まる。

これは決してJ2や各クラブをバカにしているのでは無いことはご理解いただきたい。あくまでも、J1と相対的に捉えた上での考察だ。

平均寿命の短いプロサッカー生活や、今後の名古屋グランパスの発展を考えても、なるべく早くJ1に昇格するべきだと考えている。いくらチームとして目指していたレベルまで成熟されていなくても。だ。

J1昇格即優勝争いができるクラブになるまで、無理に昇格できなくても良い。じっくりチーム作りをすべきという意見ももちろんある。が、J2に長くいればいるほど、そのようなクラブになれる可能性は減少していくことは想像に容易い。それほどJ1は甘くないし、J2も甘くない。

当たり前だと思われるかもしれないが、J1で勝てるチーム作りをするためには、J1のチームと週1〜2回ゲームをした方が余程実践的かつ効率的で、再現性が高い。追求した結果、また降格してしまったら、それは力不足と認めるしかない。イデオロギーは高いレベルで追い求めてこそ、結果が伴った汎用性の高いフィロソフィーとなる。

具体的に残り半分のシーズンで取り組んでほしいことを列挙する(まだ湘南戦が残っているけど)

・ユニットとユニットを有機的に繋げる(要は再現性を創造する)取り組みに着手し始めてほしい。要は、「チーム戦術」を攻撃において取り入れるということだ。

風間八宏氏と出会って、劇的に変わることができた部分、伸びた部分を結果としてピッチ上で示すことができて初めてプロであり、プロとしての成長だと言えよう。個として、ユニットととして高めた精度を、相対的なボールゲームの中でどう発揮して、結果にコミットしていくか、その道筋(戦術)は、少しくらいは示しても良いのではないかと思っている。

具体的には、ボールの前進の仕方(ビルドアップ)において、質的優位だけでなく、位置的優位や数的優位を能動的に生み出す試みだ。優位性を創るためには、相対性が必要だ。その観点は、サッカー選手は絶対に失ってはいけないと思う。即興性だけではJ1では勝てない。また、代表選手になった際に、ワールドカップでは勝てない。その意識を踏まえた試みを、今のうちからしていくべきだ。

なぜ質の高いボール前進が必要なのか?それは、個の良さをなるべく良い環境で発揮させるために他ならない。選択肢を多く持てる状態で、前線の選手にボールを前向きに渡すことが、ビルドアップの最大の目的だ。保持することが目的ではない。そこを取り違えないアプローチをしてほしい。

 

トランジション(とりわけ守備に回った際の)の強度と、組織(構造)としての連動性を高めるトレーニングを進めてほしい。個人的に、ボールを握りたいチームがトランジションで遅れをとることについては、大きな大きな矛盾を感じざるを得ない。ボールを保持したいのであれば、相手に奪われたボールを、なるべく早く奪い返す試みは論理的だからだ。

同じようなプレーモデルを志向するグアルディオラ監督のチーム作りの基礎は、守備、とりわけネガティブトランジションの組織的な整備であることは有名な話である。

 

以上、長くなってしまったが、前半戦の総括と、後半戦への期待を述べてみた。

私は風間八宏氏のことを本当に尊敬している。自分が小さい頃に出会っていたら、、、と感じることすらある。

彼は言語化に長けた指導者だ。だからこそ指示が具体的にイメージできる。

これまで個人のテクニックや認知判断動作は、感覚ベースで行われることが多かった。それを言語化して、噛み砕いた形で選手にイメージさせることが抜群にうまい。

だから、彼に教わった選手は皆、選手としての幅を広げたり、芸を深めたり、結果的に選手寿命すなわち選手としての価値を高められている。

そのそれぞれの個やユニットが、相対的なボールゲームの中で、もっと有機的に論理的にかみ合うことができたら、確かに夢のようなチームが出来上がるかもしれない。

名古屋には川崎フロンターレのような魅力的で素晴らしいチームになってほしいし、そして、彼らが掴むことができなかったものを掴んでほしい。

 

私がこんなところで何を書こうが、きっと現実は変わらない。いや、絶対変わらない。

そんなことはわかっている。でも、書きたかったから書いた。

フットボールとは相対的なスポーツであるということ(J2第18節東京ヴェルディvs名古屋グランパス)

前置き

「自分たちのサッカー」という魔法の言葉が流布して久しい。
つまるところ、それはプレーモデル(そのチームがコンセプトとしている絶対的な原則)を指しています。そのプレーモデルを基に、人材・配置・規則性を定めていきます。つまり、「戦略」です。
そして「戦術」とは、戦略を遂行するための手段です。つまり、「戦術」を語る際には、「戦略」を踏まえなければ、その術に内在している意図が見えません。どういうフットボールを展開して、勝ちたいのか。その為に必要な手段は何か。相手がそれに対してタイプAという手段で対抗してきた場合、自分たちはそれに対してどう対処するか。
フットボールは相手があってこそ成り立つスポーツです。自分たちのプレーモデルを遂行するために、相手のどの部分を消すのか、逆に逆手に取るのか、幾手もの手段を予め実装した上で、90分間戦う極めて相対的な競技であります。
現在のJ2リーグにおいて、フットボールの相対性をプレーモデルに落とし込み、非常に論理的なパフォーマンスを展開している2つのクラブがあります。
徳島ヴォルティス、そして今日のテーマである東京ヴェルディです。
両チームのプレーモデルには幾つかの共通点があります。
・守備は、相手の攻撃を攻撃するものとして捉える
・常に高いインテンシティを保持する
・自分たちのストロングポイントを、相手のウィークポイントにぶつける
・全てのプレーのベースにあるのは、ポジショナルプレー
上記のプレーモデルを遂行する為には、相手チームに対する詳細な分析が必要です。

更に、基本的な戦術は相手チームに合わせて組まれるものなので、
「見かけのフォーメーション」は毎試合ちょっとずつ異なります。
ただ、守備と攻撃における原則は同じ、ポジショナルプレーです。
そのあたりを踏まえて、前節の東京ヴェルディvs名古屋グランパスを振り返りたいと思います。

スタメン

東京ヴェルディ

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<守備時>
ハイプレス時:ウイングバックが1列上がって全体がボールサイドにスライドする4-4-2
リトリート時:5-2-2-1
<攻撃時>
布陣をそのままにした形、あるいはボランチを1人最終ラインに落として、どちらかのCBを押し上げる3-2-5、あるいはボランチを1列落として、左右のCBを押し上げる4-1-5の形が基本形

 

名古屋グランパス

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攻撃時はワシントンが1列落ちてビルドアップをサポートし、左右のSBを押し上げる3-1-4-2がベース。

守備時は3ラインの4-4-2で構える。

 

0分〜15分

開始15分は互いに牽制し合いながらも、ヴェルディが持ち込んできた対名古屋戦術を攻守において垣間見せます。

攻撃においては、ボールを必要以上に保有せず、急増最終ラインの背後をシンプルに狙う形がまず1点。

怪我によって、高木善朗が欠場し、代役となった18番高木大輔は、豊富な運動量と裏への抜け出し、スプリント力が武器の選手です。

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また、同じ構造をシャドーの梶川が突いてフィニッシュまで持ち込む場面も。

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名古屋のCB-SB間が開くことをスカウティングし、そこに人、あるいはボールを斜めに入れる形が複数見受けられました。

 

 

守備においては、名古屋の最終ラインがボールを保持している場合は、

1トップの高木大輔がボールホルダーにアプローチし、ボールと高木大輔の位置に合わせて全体がプレッシングしていきます。

シャドーの片方が、もう片方のCBにアプローチ(ここで名古屋のCBと数的同数プレスをかける)し、ボールをサイドに追いやります。

ボールを受けた名古屋のSBに対しては、WBがチェックし、そのWBのポジションとボールの位置によって、全体がまたオーガナイズされます。

 

最終ラインはアプローチしたWBに呼応してボールサイドにスライドする為、4バックで構えるような格好になるのが、ロティーナ(というか3-4-3でのゾーンプレスチーム)の守備での特徴です。

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(トップとシャドーで名古屋CBにアプローチ)

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(名古屋のCB-ボランチ間のコースを切ってサイドに誘導。そこにはWBが一列高い位置でアプローチ)

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(全体がスライドし、最終ラインは4バックに可変)

 

ただ1つ問題が。それは最終ラインの高さです。いつもなら前線のアプローチに呼応してもう少し高めのラインで圧縮するのですが、この日の立ち上がりはラインが深めな気がしていました。それに伴って前線の選手との距離感がちょっと悪いです。

上の画像でも、前3人とWBは戻りきれていません。これではセカンドボールが拾えない。

まぁとはいえ、プレーモデルに関しては互角、そしてどちらかというと戦術レベルでヴェルディ優勢でゲームが進んでいましたが、

上記に書いた懸念点を名古屋が突きました。名古屋のテンポの良いパス回しから、田口泰士がワンタッチでシモビッチに付け、それに反応した杉森考起のビューティフルゴールが決まるのが15分。

ボールがなかなか取れず、全体の守備エリアが下がってきていたこと、それに伴って田口泰士へのアプローチが1テンポ遅れたこと、など改善点はあります。ただまぁ普通の物差しで見れば、かなり布陣はコンパクトです。

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それでも、ロティーナの言葉を借りれば「防げたゴール」の部類に入るかもしれません。ただ考起のシュートはうまかった。どこに当てたんやろう??とにかくおめでとう。

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15分〜30分

 先制されたヴェルディ。ただ、戦術は引き続き徹底される。

名古屋の守備の問題点は大きく3つ(これはこの後も出てくるので、数字で表記しておきます)

①ネガティブトランジションに連動性がない

②サイドを早く変えられるとプレスがかからない

③人を意識するサイドの選手と、スペースを守りたい中央の選手の意図が合っておらず、しばしばハーフスペースが作られる

16分には、左サイドで起点を作られ、そこから早くサイドを変えて、安西からのワンタッチクロスであわや決定機。

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19分には、左サイドのハーフスペースで起点を作られ、そこからサイドを変えて、渡邉の3列目からの抜け出しでフィニッシュまで持ち込まれます。

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(左CBの平が持ち出し、ウイングレーンの安在に付け、ワンタッチでハーフスペースの梶川に流してアタッキングサードに侵入。外外中崩しのお手本です)

また、③の弱点を突く形で、22分にはボール奪取後アラン・ピニェイロがCB-SB間を抜け出します。

ヴェルディが名古屋の弱点を効果的に突く流れでしたが、それを打ち破ったのが一人のテクニシャンでした。

 

23番青木亮太(通称、宇宙人)です。

 

ヴェルディの速いネガティブトランジションを青木の個人技術で回避。残るは広大な中盤のスペース。という流れで名古屋が個人技術を前面に出しながらヴェルディのプレッシャーを退けていきます。

更に、サイドハーフの和泉と八反田、そこに青木や杉森を含めた選手たちの流動的なポジショニングとコンビネーションにつられ、ヴェルディの守備は後手を踏むようになってきます。

また、マイボールにした際の攻撃パターンが裏一辺倒になってきた(アラン・ピニェイロがハーフスペースを使わず、裏へのボールしか要求しない。確かに一見狙いたくはなるけどw)ため、最終ラインと前線の意識、距離感が開き、中盤を名古屋に制圧されるようになり、リズムが次第に悪くなっていきます。

 

こういう時に、降りてきて中盤を助けたり、他の選手がプレーできるスペースを作る動きができていた高木善朗の不在が響いてるなぁという時間帯。

 

30分〜45分

この展開を受けて、34分にはパレンコヘッドコーチ、ロティーナ監督が最終ラインを攻撃時に高く設定するように指示します。当然の指示だと思います。

 

これによって、ヴェルディはビルドアップの形を少し変えました。

3バックと2ボランチによるボール前進から、井林と畠中とボランチ3人で名古屋の2トップの軽めのプレッシャーを回避し、左CBの平をかなり高い位置に押し上げて、前線に5枚を張らせる。それに伴って最終ラインも押し上げていく。

 

図にするとこんな感じです。

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これには目的が2つ。1つは前述のように最終ラインを押し上げたい。もう1つは名古屋を6バック化させてラインを下げさせることで、ボランチ脇のスペースをより有効活用したいという点です。

名古屋の弱点③に関連させた戦術になります。

これは40分、安西のミドルシュートのシーンですが、同じようなスペースを突けています。

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このように名古屋を6バック化させて、生んだボランチ枠のスペースを活用し、梶川の幻の同点ミドルに繋がります。

 

ヴェルディとしては、変更した戦術がハマった結果のゴールですから、取り消しという判定にあれだけ怒るのも無理がありません。してやったりなわけですからね。

ということで、かなり戦術的に濃い前半45分でした。

 

45分〜60分

互いにメンバー交代は無し。前半途中で負傷気味だった高木も交代無し。

47分、ヴェルディの左サイドのプレスがハマらず、青木が自由に。

今日の彼を自由にさせたら高い確率でピンチになります。

ということで青木のスルーパスに杉森が裏抜けで受けてフィニッシュ。

シュートは枠の外。

高い位置からのゾーンプレスを仕掛けるチームにとって、一つ噛み合わないと難しくなります。

 

その後やっぱり高木は厳しいということで51分、ドウグラスヴィエイラに交代。

 

56分にも和泉のパスに杉森が逃げる動きで受けてフィニッシュする決定機創出。このシーンは後で動画を見直して欲しいのですが、ヴェルディの前からのプレッシングを、GKの渋谷がワンタッチで展開することで打開し、和泉のラストパスに直接繋げています。目立たないですが、非常にいいプレーでした。

 

60分〜75分

てな形で、後半開始直後から、名古屋の個人技術の高さによってヴェルディの全体が押し下げられ、セカンドボールを拾えない状態。

かといって、名古屋もネガティブトランジションの強度が弱いので、中盤はヴェルディにとってもスペースがある状況になっています。

そのエリアで互いが互いの縦パスを引っ掛けあう展開に。

和泉の63分の決定機もその流れからでした。

 

で、65分。名古屋の弱点とそれを突いたヴェルディ、明暗が分かれます。

ヴェルディ陣内でボールを失った名古屋は、後ろ向きでボールを受けた内田に対してワシントン含めて3人がアプローチできる状況にもかかわらず、お見合い。

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その後簡単に右サイドに展開されます。

アラン・ピニェイロが名古屋の弱点であるCB-SB間を斜めに裏抜けし、そこにパスを合わせます。

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そしてペナ角を取れたアラン・ピニェイロからのパーフェクトなセンタリングに、ドウグラスヴィエイラが頭で合わせて同点。してやったりですな。

 

追いついたヴェルディとしては、もう一度前半終了間際に見せたように、全体を高い位置に押し上げるためのクリーンな球出しから、名古屋の中盤を押し下げた6バック状態にして、敵陣を制圧したい。

ということで、運動量豊富にビルドアップのサポートと、3列目からの飛び出しを行なっていた渡邉に代えて橋本英郎を投入。

それに伴って、今日3つ目の攻撃時システム変更します。

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狙いは2点。1点目は名古屋の急増最終ラインを2人のFWで徹底的に殴ること。具体的にはCB-SB間を狙う。サイドからのセンタリングを増やす。(そのために両WBのポジションも変更になっています)

2点目は中盤が実質2人状態の名古屋に対して、橋本を含めたセンター3人で制圧するということ。

 

そして67分、名古屋の集中が少し落ちてるのもありましたが、橋本→ドウグラスヴィエイラ であっさり逆転に成功します。

橋本のピンポイントなパス、CB-SB間を斜めに突いたドウグラスの動きの質と、トラップからシュートまでの技術の高さ。

完全にヴェルディの狙いがゴールに結びついたシーンでした。

 

その後もヴェルディセカンドボールを奪取し続け、2トップは継続的に名古屋の最終ラインを攻撃し、主導権を握り続けます。

 

その後、杉本竜士永井龍佐藤寿人を立て続けに投入しますが、中盤を作れない名古屋にとっては、FWの連続投入は決していい方向に結びつかず。

 

そのままの展開でゲームは終わりました。

 

総括

今日のテーマは「フットボールの相対性」「プレーモデル」でした。

ヴェルディは名古屋をかなり研究していたことは、本ブログからも少しは読み取っていただけたのではないかと思います。

 

個人・組織いずれの側面でも守備能力の低い名古屋の最終ラインをどう突くか。

そのために名古屋の中盤をどういう形に押し込むか。

名古屋の良さを出させないためにどう守るか。

ヴェルディは攻撃の形だけで少なくとも3通りの引き出しを見せていました。

守備においても、4-4-2と5-2-2-1と5-4-1を状況に応じて使い分けていました。

 

対する名古屋はどうだったでしょうか。

個人技術でヴェルディの圧力を剥がし、チャンスを多く作ることに成功しました。

現在の名古屋のアプローチには相対性は垣間見ることは難しいです。

今クラブが取り組んでいるプロジェクトにおいて、一プロセスの中での「個を伸ばす」という位置付けであることを祈っています。

素晴らしい才能が溢れていることは間違いありません。

それを、フットボールという相対性の高い競技の中で、フルに活かし、結果を出せるかどうか。

「自分たちのプレーモデルを発揮するために、相手をよく知る」

この観点の重要性をヴェルディから学んだような気がしました。

なぜなら、ヴェルディの選手たちも同様に1試合1試合確実に成長しているだろうなと感じさせたからに他なりません。

 

色々なことを考えさせられた試合でした。