「パッキングポイント」という指標で、J1昇格プレーオフ決勝の名古屋を切り取る

【前置き】

現代のフットボールは、IT化によって、選手のパフォーマンスや戦術が数学によって解析・分析され、それがまた戦術策定に活かされる「soccer matics」が進みつつあります。

昨シーズンから、Jリーグもトラッキングデータを公表することとなり、これまで漠然と印象論ベースで語られていた「運動量」「スピード」といった選手の特徴が、客観的に見ることができるようになりました。

そういった流れの中で、これは本当に意味があるのか?という議論も活発にされるようになってきました。その筆頭が、「ポゼッション率(ボール保持率)」でしょう。

ポゼッション率と勝敗間には美しい正の相関が必ずしも見られる訳ではないということです。

つまり、「ボールをどれだけ保持していたか」という指標だけでは、ゲーム分析においては物足りないということです。

例えば、「敵陣でのボール保持率」等、複数のデータを組み合わせることで初めて意味が出る指標であるという議論です。

 

このボール保持率に対して、現在注目され始めているのが「パッキングポイント」という指標です。詳細はこちらの記事をご覧ください。

headlines.yahoo.co.jp

サッカーのデータアナリストとして有名な庄司悟氏の記事です。

記事内には、以下のような説明があります(そのまま貼りました)

「ボールポゼッション率では、実際に相手を崩せているかがわかりません。それを踏まえて考案されたのが『パッキングポイント』というものです。これは、1本のパスで何人の相手選手を飛ばすことができたか、を計る指標です。

 図2にあるように、たとえば選手Aが選手Bにパスを通して、Bが前を向けたとします。このパスでは6人の相手選手を通過しているので、6ポイントが入ります。Bが前を向けなかった場合は、貢献度が下がるのでポイントは80%減らされて20%分のポイントが入ります。このケースでBが前を向けなければ、6×0.2で1.2ポイントが入るということですね。

 これは出し手と受け手の両方にポイントが入ることになっています。つまりパス出しがうまいだけでなく、パス受けがうまい選手も評価されるわけです。手元にEURO2016におけるチームごとの『パッキングポイント』をまとめたデータがあるのですが、GS1位突破を果たした6チームが全24チームのトップ6を独占していました。現代サッカーにおいては、かなり有意義な指標と言えると思いますね」

 

ボールをどれだけ有効に前に運べているかを、出し手と受け手という観点から切り取って、スコア化したのがパッキングポイントだということです。

 

ということで、早速先日のJ1昇格プレーオフ決勝の名古屋のフィールドプレーヤーのパッキングポイントを集計してみました。

 

(↓予めご了承ください↓)

私が、NHKDAZNの中継を元に集計したデータなので、おそらく完璧に正確ではありません。が、ニュアンスくらいは読み取れると思います。

そのくらいの気持ちで見てください。

 

【結果】

<前半45分>

 

出し手

受け手

合計

宮原

8.6

 

8.6

ワシントン

5.4

 

5.4

櫛引

6.2

5.6

11.8

小林

27.6

5.6

33.2

田口

4.6

7.8

12.4

青木

1.6

18.4

20

和泉

11

7.2

18.2

シャビエル

10.6

7.4

18

佐藤

2.2

9.2

11.4

シモビッチ

0.4

29

29.4

玉田

 

 

0

イム

 

 

0

永井

 

 

0

 

前半での、出し手としてのトップスコアは小林裕紀の27.6。

受け手としてのトップスコアはシモビッチの29でした。

合計スコアでも、両者がトップ2という結果でした。

 

<後半45分>

 

出し手

受け手

合計

宮原

5.4

 

5.4

ワシントン

7.4

 

7.4

櫛引

3.4

1

4.4

小林

15.4

0.6

16

田口

8.8

15.4

24.2

青木

6.8

9.2

16

和泉

9.4

7.2

16.6

シャビエル

7.6

5.8

13.4

佐藤

 

0.6

0.6

シモビッチ

3.4

12.8

16.2

玉田

5.6

17.8

23.4

イム

 

 

0

永井

 

 

0

 

出し手としてのトップスコアは前半同様小林裕紀の15.4。

受け手としてのトップスコアは玉田圭司で17.8。

玉田は途中出場にも関わらず、非常に高いスコアを記録しました。

後半の合計点のトップは田口泰士、次いで玉田でした。

 

<90分合計>

 

出し手

受け手

合計

出場時間(分)

出場時間あたりのポイント

宮原

14

0

14

90

0.156

ワシントン

12.8

0

12.8

90

0.142

櫛引

9.6

6.6

16.2

90

0.180

小林

43

6.2

49.2

90

0.547

田口

13.4

23.2

36.6

90

0.407

青木

8.4

27.6

36

90

0.400

和泉

20.4

14.4

34.8

90

0.387

シャビエル

18.2

13.2

31.4

90

0.349

佐藤

2.2

9.8

12

53

0.226

シモビッチ

3.8

41.8

45.6

90

0.507

玉田

5.6

17.8

23.4

37

0.632

イム

0

0

0

3

0.000

永井

0

0

0

1

0.000

 

試合を通じての合計トップスコアは、小林の49.1。次いでシモビッチの45.6でした。

それぞれ、出し手と受け手でのスコアが傑出しています。

注目すべきは、出場時間あたりのポイント数。もっとも高いのは玉田圭司の0.632でした。

 

【考察(という名の独り言)】

「パス数」という評価指標以外で、小林裕紀の出し手としての貢献度が高いことが示唆された結果となりました。

ポゼッションを落ち着かせるのみならず、ボールを効果的に前進させることができているということです。やはり、名古屋の攻撃は彼に支えられているといっても過言ではない気がします。

 

シモビッチの受け手としてのハイスコアも注目しないわけにはいきません。シーズン中は玉田や永井龍佐藤寿人と併用という形で、スタメンの日もあれば、サブの日もありました。

ただ、プレーオフは2戦続けてスタメン出場し、準決勝の千葉戦ではハットトリックしています。

結果ではなく、こうしたスコアからも、彼のFW、アタッカーとしての貢献度が表れているのではないでしょうか。

 

そして、決勝の影のMVPの1人として評価もされていた玉田ですが、出場時間が40分にも満たない中で、パッキングポイントでも高いスコアを記録していたのも印象的です。

 

後半は福岡にパワープレーで押し込まれる時間もあったことから、最終ラインの選手のパッキングポイントの合計が後半は9.6ポイント減っていますし、小林や両ウイングの選手も、守備のフォローに回る時間が増えた分、スコアを減らしています。

その分、田口が受け手出し手両方でポイントをかなり上げています。

後半は、田口を起点に、玉田やシモビッチと絡みながら前線でボールを落ち着かせ、リズムを取り戻そうとしていたことが窺えますね。

また、最終ラインのワシントンから、ダイレクトに縦にボールを付けるシーンがあったのも後半の特徴でした。

 

 

気になったのは、佐藤寿人とシャビエルの、全体的なスコアの低さです。

この試合は、彼らがボールを受ける際にはマッチアップしていた實藤友紀堤俊輔がかなり厳しくチェックをしていたため、効果的にボールを受けることができなかったと思われます。

来シーズン、J1でより高い結果を望むとなると、シャドーポジションが90分通して、どれだけパッキングポイントを上げることができるかというのは重要なファクターかもしれません。

その中でも、若手のホープである冨安健洋とのマッチアップをこなしながらこれだけのパッキングポイントを叩き出したシモビッチはさすがの一言です。

 

【まとめ】

パッキングポイントを初めて計算して見ましたが、なんとなく試合の印象とスコア結果が相似している気がしました。

今後、以下の点が深まるともっと意義のある指標になると思います。

・過去数試合との比較

・対戦チームとの比較

・ユニット(1人-1人、3人グループ等)でのパッキングポイントの集計

 

今回はシングルアームかつ、この1試合のみでの検証だったので、「比較」という検証が、自チームでの前半と後半という軸でしか、見ることができなかったので、いつか複数の軸で検証して見たいなと思いました。