湘南戦を題材に、名古屋グランパスの対策方法を考える

【前置き】

J1に復帰して、リーグ戦3試合を終え2勝1分とまずまずのスタートを切った名古屋グラパス。

ストーブリーグでの大型補強によって、開幕前からかなり注目されていましたが、現状は及第点を与えてもいいのではないでしょうか。

そんな中で、先日の湘南戦(結果は0-0)で感じた、名古屋の攻撃における課題を、湘南が講じてきた対策を踏まえて考えてみたいと思います。

色々書きたいことはありますが、今日は1点に絞ります。

 

【ズバリ、対名古屋で効果的な方策とは??】

今日は結論から書きます。

「中央(及びハーフスペース)で前を向かせない(使わせない・侵入させない)」ことです。

当たり前やん!?と思うかもしれませんが、難しいんですよね。

そのために湘南が行なった方策を名古屋にとっての自陣、敵陣それぞれ見てみます。

 

【名古屋の自陣における、湘南の守備】

ポイントは以下の2点です。

1.中央のコースを切りながらプレッシングを仕掛け、ボールをサイドに追いやる

2.ゴールに対して後ろ向きの選手へのパスを誘導し、前向きな状態で奪ってショートカウンター

この2点を湘南は徹底していました。

名古屋にとって角度を付けた前方へのパス(斜め方向のパス)の選択肢を消していくことで、最終的に縦にボールを出しても受け手の状況を不利にさせることができます。

湘南としては、後ろ向きの選手に対して、前向きにボールを奪いにいけるので、その勢いをそのまま用いて縦に速いカウンターを繰り出すことができますし、全体をそのまま押し上げることができるので、ゲーゲンプレスを発動させることができます。

 

この2点を徹底したことによって

・角度を付けたパスコースを消し

・後ろ向きの選手を作り

・そこにパスを誘導して、前向きに奪ってそのまま縦にカウンター

をうまく発動させることができているシーンを2つご覧いただきます。

 

 

 

①の方を少し切り取ってみました。

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見辛いので申し訳ないですが、ボールを持っているのがアンカーポジションの小林です。

湘南を最前線の選手からチェックしていきます。1トップのイ・ジョンヒョプが、ホーシャへのパスコースが切れるポジションに立ちつつも、菅原へのアプローチも可能な位置で牽制しています。

ボールホルダーの小林には左シャドーの松田天馬が左側への角度を付けたパスコースを消しながらプレッシャーをかけています。

名古屋のインサイドハーフに対してはボランチの石川俊輝と、右シャドーの菊地俊介が前向きで捉えられる位置に張り付いているのがわかると思います。

そして、一番奥ですが、名古屋の右SB宮原に対しては、左WBの杉岡大暉が最終ラインから大きく前に出てアプローチをしています。

つまり、セットした状態では5バックで守る湘南ですが、高い位置から守備をする際はボールサイドのWBが一列上がり、後ろをそれぞれスライドさせて4バックに変えてプレッシングをしています。このスライド、どうでもいいように見えますが、後々効果を発揮するんです。ここ、ポイントです。

一人余ったボランチ秋野央樹は中央のスペースを埋め、バランスをとりながら、常に名古屋の背後のスペースを狙います。

 

湘南の選手たちの陣形を見たらわかると思いますが、かなりボールサイドに偏っていますよね。絶対に中央を使わせない。斜めパスを入れさせず、ボールを前向きで奪うことの徹底が見て取れます。

 

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このようにジリジリと選択肢を消されていった名古屋は、窮屈なパス交換の後、小林がワンタッチで右サイドにいるシャビエルに縦パスを通します。

名古屋的には、厳しいプレッシングから、ボールを縦に出したんでしょうが、湘南は実はこれを狙っています。

試合中に解説の戸田さんが言ってましたが、角度のない縦パスはリスクがあるんですね。縦パスが全て良いとは限らないのです。横を使って相手を食いつかせて角度を作るビルドアップは、グアルディオラ監督のチームやナポリが得意としているプレーですね。

で、シャビエルにボールが出ます。

先ほどポイントと申し上げた最終ラインのスライドがここで活きてきます。

左CBである山根視来がスライドしてきたことによって、シャビエルに対して前向きにアプローチができました。

このスライドが少しでも遅れたら??魔法使いを前向きでフリーにさせたら間違いなくハーフスペースから中央にボールを運ばれて、しかも湘南は前向きの守備陣形をとっているため、一気にピンチになりそうですよね?

だからこそこのスライドがポイントなんですね。

 

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で、後ろ向きで受けたシャビエルに対して、最終ラインの選手の山根がハーフラインを越えるところまでついていき、デュエルを作ってボールを前向きに奪います。

前向きにボールを狩れていますから、当然湘南の選手たちはそのまま前に、名古屋の選手は背中を取られる形になります。

この後、前線でパスコースを切っていたイが名古屋の最終ラインの裏を突く動きをして、それに合わせてフィードし、ボールを一気に前進させます。

結局このプレーでは、湘南はボールをフィニッシュまで持っていくことができませんでしたが、奪った瞬間、シャドーの両選手のみならず、守備に関与していない逆サイドのWB高山薫が怒涛のスプリントを見せてゴール前に雪崩のように侵入していくのがいわゆる湘南スタイルですね。この試合の高山のスプリント数は30を超えていました。当然出場選手の中でダントツの1位です。

 

ここでのポイントは、「奪ったボールをなるべく早く敵陣奥に運ぶ」ことです。

これによって、名古屋の最終ラインは深く下がることを強いられる結果、陣形を間延びさせることができるので、その後の名古屋のパス回しを遮断することにも繋がります。

斜めを使わせない前向きなプレッシングのみならず、その後のカウンターの形も含めて、名古屋の良さを自分たちの良さを用いて消していくというコンセプトが随所に現れていました。

試合後、CBの菅原由勢も「間延びしてしまった」とコメントしていました。

 

【湘南自陣での守備】

名古屋にハーフコートを越えられたら、湘南は、先ほどの前がかりな陣形が嘘かのように、1トップを残して全員が自陣深くに引きます。

しかも、5バックにありがちな5-4-1の3ラインを形成してゾーンを埋めるのではなく、こういう形を作ります。

切り取るとこんな感じです。

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・名古屋の3トップに対して、3バックがほぼマンツーマンで対応しつつ、ボールサイドのWBがボールホルダーに対応し、逆サイドのWBは最終ラインのフォロー。

ボランチの片方が、マンツーマンによって空いてしまういわゆる「ペナ角」のスペースを埋める。

・もう片方のボランチとボールサイドのシャドーの選手が、ボールホルダーへの囲い込みに参加

・逆サイドのシャドーの選手がペナルティアーク付近に位置して、中央エリアを監視。

これらの複合的な仕組みによって、名古屋が最も得意とするコンビネーションからのペナ角侵入と、ハーフスペース攻略を無効化します。

 

これは、名古屋が一発のサイドチェンジはせず、あくまでもボールサイドでのコンビネーションによる崩しに拘泥することを見据えての守備だと考えられます。

このように名古屋の選択肢を消していき、ミスや苦し紛れのパスを奪って、1トップをサイドに流れさせてボールを敵陣に送り、その間で無尽蔵のスプリントで全体陣地を回復させるというのが一連の狙いです。

 

この、最終ラインはマンツーマン、ボールホルダーには狭いゾーンプレスでペナ角ハーフスペース侵入を消すやり方ですが、名古屋グランパスに精通している方ならどっかで見たことある!?って思いませんでしたが??

 

そうです。昨シーズン、J2のあるチームが同じような仕組みで名古屋のポゼッションを無効化させていました。

詳細はこちらのブログを。

 

hardworkers2011.hatenablog.com

 

ちょっと話が逸れますが、菅原とホーシャをスタメンに選んでる理由はこの辺にもあると思っています。

つまり、被カウンター時に広大な横幅エリアを一人でカバーできる走力・俊敏性がまずベースとして求められ、その上でデュエルの精度がどうか。というところです。

名古屋のCBに求められる守備能力は、組織の中でチャレンジアンドカバーをこなせる人材というよりは、多少荒くても、思い切りがよくて、賢明な判断ができ、一人で局面に蓋ができるフィジカルな選手ですね。

そういう意味で菅原は大したもんだと思いますよほんと。

 

【結果:名古屋のプレーエリア】

あまり対策を講じてこなかったガンバ戦(3ー2で勝利)

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中央エリアでの攻撃割合も高く、インサイドハーフとシャドーの距離感もハーフスペースで得られていますね。

 

少し対策の色が見えたが、初顔合わせの磐田戦(1−0で勝利)

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中央エリアでの攻撃割合はキープしているものの、ガンバ戦に比べて、長谷川アーリアジャスールのポジションが低く、ダブルボランチ気味になっています。シャビエルと青木亮太のポジションも少しサイドに追いやられていますね。

 

がっつり名古屋対策をし、かつ昨シーズン対戦経験がある湘南戦(0−0)

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まず中央エリアでの攻撃割合が一気に減っていますね。

また、宮原を含めて名古屋の右サイドのプレーエリアが低くなっていて、左右のバランスが悪いです。そしてインサイドハーフとシャドーの選手がハーフスペースでプレーできていないこともわかりますね。

 

最後に和泉の試合後のコメントです。

https://www.targma.jp/akasyachi/2018/03/11/post38595/

 

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・少しサイドに人数をかけすぎた

ジョーをシンプルに使ってもよかった

 

しっかりと現状を把握できているのは安心です。

 

【まとめ】

主に湘南の敵陣・自陣における守備戦略について考察しました。

名古屋のストロングは、サイドを起点に斜めにハーフスペースに侵入して、中央で仕留める。ここをどう抑えるかがポイントでした。

逆に名古屋のウィークネスは、大きい展開、目先を変える展開がなく、足元から足元へのパス交換を繰り返すこと。(ただこれは、風間監督から言わせればストロングなんですけどね。)

この名古屋の長短所を織り込み、自分たちの長所(スプリント力、プレッシング)をエッセンスとして名古屋対策を考えてきたわけです。

ただ、湘南に足りなかったのは、フィニッシュの精度です。ここは札束で解決できないチーム事情もあるでしょうが、やや物足りない部分ですね。。

他のチームは、名古屋に対してどのようなスタンスで臨んでくるかはわかりませんが、この湘南のアプローチは大いに参考になったはずです。

 

チョウ監督のコメントにもあったように、湘南は「湘南スタイル(我々の武器)を出して戦えていた。」

それに対して、名古屋も自分たちの武器で立ち向かった。矛と矛がぶつかり合ったことで、ゲーム自体はスコアレスドローでしたが、内容としては非常に濃いものを見せてもらった気がします。

 

きっと名古屋は今進めているプロジェクトの精度を上げることを目指すのだと思います。

こうした湘南のような対策に対して、どれだけ自分たちの矛を磨き続けることで打破できるのか。それともJ1仕様の新しい矛を実装するのか。今後も目が離せません。